空き家対策、仲介手数料の値上げだけでは足りない

 前回の投稿では低廉な空き家を売却または賃貸物件として貸す場合における仲介手数料(上限)の変更が検討されている旨を書きました。変更の対象は売主および貸主です。買主および借主が支払う仲介手数料の変更はありません。

 価格800万円以下の物件を売買する際の仲介手数料(上限)は、売主が調査費込みで税込33万円(消費税込)になる見込みです。買主が支払う手数料の金額は従来通りのまま据え置かれる見込みです。

 現在、物件が低廉な空き家である場合、仲介手数料が安すぎるために売買仲介を断わる不動産会社があります。物件の調査費、営業担当者の人件費、交通費等の合計額が仲介手数料を超えることがあるからです。

 今後、800万円以下の物件における仲介手数料(調査費込)は30万円(税込33万円)になる見通しです。仲介手数料のアップにより不動産会社が売買仲介を引き受けやすくなりますが、空き家対策にはほど遠いと思います。

 価格を安くしても物件を売却出来ず、空き家のまま放置されている物件の多くは交通が不便です。近くに繁華街やショッピングセンター、コンビニなどがなく、自家用車の利用が不可欠な物件は人気がありません。

 公共交通機関として路線バスがあるものの、運行本数が少ない場合は人気がありません。利用者が少ないとして減便したところ利用者が更に減り、最終的に2~4時間に1本しか運行しなくなったエリアが増えています。廃止されたエリアもあります。このようなエリアの物件はなかなか売却出来ません。

 最近、高齢者に運転免許を返納させようとする動きがあります。今後、高齢者の運転を許さない社会風潮が生じる懸念があります。どこに行くにも自家用車が必要な物件は、高齢になった際に生活できなくなる恐れがあります。このため、購入希望者がなかなか現れません。

 市街化調整区域内、または都市計画区域外の物件も人気がありません。市街化区域に指定されているエリアでは公共投資が活発に行われ、公共施設や下水道等の整備が進みます。しかし、そもそも市街化調整区域および計画区域外のエリアは人の居住を制限するエリアです。必然的に公共施設や下水道の整備に対する予算が付かず、整備が進みません。

 住宅が多く建ち並んでいるのに、市街化調整区域であるエリアがあります。過去に市街化区域への変更が何回も提案されたにもかかわらず、住民の反対により市街化調整区域のままであるエリアがあります。住民が反対する理由は、市街化区域に変更されると都市計画税を新たに徴収されるからです。

 新たに住宅を購入したいと考える方の多くは公共施設が充実し、下水道等の整備が行われているエリアの物件を希望します。このため、市街化調整区域や都市計画区域外の物件は売却しにくく、長期間、空き家になりがちです。

 広大な農地の中に建つ住宅を売却したくても、ほとんどの場合に購入者は現れません。農地といっても後継者がいないなどの理由により耕作が放棄されている土地があります。そのような土地の一角に戸建住宅が建っていることがあります。

 この戸建住宅の売却は、農地法により制限されます。農地は農業を生業とする者にしか売却できないとされており、住宅があっても農地であることに変わりないからです。

 住宅を農地と切り離して売却したい場合は、地目を宅地に変更しなければなりません。これには農業委員会の許可が必要ですが、許可が下りないことが多いのが現状です。

 「農地およびその上に建つ住宅を相続したが、利用しないので売却したい。」との相談を受けたことがあります。しかし、この場合も農地法が問題になり、最終的には断念していただくしかなかったことがあります。

 低廉な空き家の流通を促進するためには公共交通の充実、および法制度の見直しが必要です。公共交通機関、特に路線バスは、利用者が少ないという理由で安易に大幅な減便や廃止を行うと空き家が増える原因になります。全て民間に委ねるのではなく、補助金の投入が必要ではないかと考えます。

 また、法制度の見直しも必要です。市町村の大半が市街化調整区域、または都市計画区域外である市町村があります。「住民が反対しているから市街化調整区域のままにしておく」という施策は、空き家対策に逆行します。

 農地法も改善の余地があります。農業人口が減少し、耕作放棄地が増えているのに売却先を農民に限定する現行制度は、いずれ行き詰まると考えられます。