事業用ビルの運営は、賃貸経営の初心者に不向き

 ご承知の通り、コロナ禍がなかなか終息しません。このため、飲食業や物品販売業から撤退して収益用不動産を購入し、運用する企業が急増しています。

 収益用不動産には様々なものがあります。アパート、マンションといった「住宅」だけではなく、店舗や事務所が入居している事業用ビルも収益用不動産です。

 東京都内では1棟もののアパートやマンションに対する需要が急増したことから価格が異様に高騰し、利回りが非常に低くなりました。コロナ禍になる前は表面利回り7~9%超の物件がよくありましたが、最近は3.5~5%の物件ばかりになっています。買い替えた途端に利回りが急激に減るので購入を控える事業家が増えています。

 東京では買い替え需要がほとんど消滅したといえる状況であり、新規に売り出される1棟ものの賃貸アパートや1棟ものの賃貸マンションの数が激減しています。このため、購入する物件をアパートやマンション等の「住宅」に限らず、事業用ビルの購入を検討する事業家が増えています。

 しかし、事業用不動産を購入する際には以下の点に注意する必要があります。

事業用不動産を購入する際の注意点

1.法人が入居して店舗を運営している場合、法人そのものがM&A等による売買の対象なので店舗の業態変更や運営担当者の変更が頻繁に発生し、トラブルになりやすい。

2.法人が倒産した場合、店舗内の什器備品および造作をそのまま放置して事業を撤退することがある。業種により大型の冷凍庫や給湯ボイラー、排気ダクトを備えているが、これらの撤去費の全額をビルのオーナーが負担しなければならないことがよくある。

3.エレベーター、エスカレーター、自動ドアを設置していることが通常であり、点検費用および維持費が発生する。さらに故障の際に緊急に修理対応出来る体制を構築しておく必要がある。利用できない期間が長期化すると店舗賃料の減額請求が必ず発生する。

4.建物には不特定多数が出入りする。お客様として事業用ビルに来られた方同士のトラブル、店舗とお客様との間のトラブル等が発生しやすいので、営業時間中は警備員を常時配置し、適宜巡回させる必要がある。

5.お客様用の駐車場を備えている場合、お客様ではない者が自動車を乗り入れ、長時間駐車することがある。また、ホームレスが住み着くことがあるので誘導員を兼ねて駐車場の管理人を置く必要がある。

6.賃貸マンションなどと比較すると共用部の面積が広く、複数の共用トイレが設けられていることが多いので清掃員を雇う必要がある。

7.いわゆる反社会的勢力と繋がっているテナントが入居していないかを調査する必要がある。

8.テナントの退去が発生すると、次に入居するテナントが決定するまでに長期間を要することが多い。
 いわゆる駅ビルを除き、半年~1年以上になることがある。

9.廊下などの共用部分のリフォーム工事を行う際も、店舗や事務所を営業できない期間が1日でも発生すると 店舗賃料の減額請求が必ず発生する。

10.店舗スペースの無断転貸が行われやすい。

 これらは、収益用不動産の運営(賃貸経営)に関する初心者が対応出来る内容ではないと思います。管理会社に管理を委託する場合でも、ビルのオーナーが自ら判断しなければならない項目が数多くあります。ある程度の経験を積まれた方でないと、事業用ビルの運営は非常に困難であると考えます。

 1棟ものの賃貸アパート・マンションを購入して運用する方がリスクが少なくて済みます。