利回りが低い、または空室率が高い収益用不動産は購入を控えるべき

 東京都区内などの大都市では、売り出し中の中古の収益用不動産(賃貸アパート、賃貸マンション)における利回りが極端に低下しています。

 東京都区内における中古の収益用不動産における利回りは、コロナ禍になる前は表面利回り8%超、実質利回り6%超の物件が大半でした。しかし、現在は表面利回り3~5%、実質利回り1.5~3%程度の物件が平然と売られています。

 「老後には2000万円が必要」というフレーズが一人歩きしていることから、収益用不動産に対する需要は爆発的に増えています。収益用不動産の売買を生業とする不動産会社は「空室になった際の空室期間は都心の方が短いです」とか「高い家賃を受け取れるのは都心の物件です」等のセールストークを用い、都心にある中古の収益用不動産の販売に熱心です。

 事業用ローンを利用して収益用不動産を購入する際、事業用ローンの利率は1.5~4%程度なので、前述した都心に立地する実質利回り1.5~3%程度の物件ではいわゆる「逆ざや」になります。収益を得ることはできません。しかし、それでも購入を決断される方が多いので驚きです。

逆ざやを承知で、キャピタルゲイン狙いで購入することは得か
 逆ざやを承知で購入される方の多くは物件価格の上昇を見込み、いわゆるキャピタルゲインを狙って購入しています。将来的に値上がりした時点で売却すれば良いと考え、購入しているのでしょうが、収益用不動産の価格は利回りで決まります。このため、物件所在地における土地の相場が上昇しても、収益用不動産として売却する場合には家賃が上昇していないと、高い価格では売却出来ません。

 この場合、建物を取り壊し、更地にして売却することも考えられますが、入居者に対して支払う立退料、建物の取り壊しに要する費用を勘案すると、値上がり分を超える費用が発生する場合があります。

 それに現在はコロナ禍であることによる売物件の不足と「老後には2000万円が必要」というフレーズの一人歩きにより物件価格が高額になっているので、コロナ禍が終息し、「老後には2000万円が必要」というフレーズが忘れられた頃には不動産価格は下落に転じる可能性があります。

 逆ざやを承知した上で、キャピタルゲイン狙いで低利回りの収益用不動産を購入することは、損得を論じる以前に危険であると考えます。

都心の単身者用賃貸住宅は空室率が高いことから実質利回りが低い
 私の会社がある東京都目黒区における単身者用賃貸住宅の空室率は、駅からの距離にもよりますが15~20%前後です。空室率の増大は、実質利回りの低下に直結します。

 職を求めて上京し、普通に生活していたにもかかわらず、コロナ禍が長期化したことから解雇され、郊外の家賃が安い賃貸住宅に転居した、または出身地に帰った若い方が大勢います。単身者用賃貸住宅の空室率が急上昇しているのはこれが主な原因です。

 さらに、鉄道の高速化も都心にある単身者用物件における空室率の増大に寄与しています。東京都の大田区、品川区、目黒区から20分程度電車に乗車すれば神奈川県川崎市に到達します。このエリアにおける家賃は東京都の目黒・品川・大田区の各区における家賃よりも3割程度安くなります。

 鉄道の高速化が進むと、わざわざ都心の家賃が高い物件を借りなくても郊外の安い物件を借りれば足りると考える方が増え、都心の収益用不動産における空洞化が進行します。

 表面利回りが高い物件でも空室率が高いことから実質利回りが低い収益用不動産があります。このような収益用不動産を購入してしまうと逆ざやになり、賃貸住宅経営が破綻する原因になります。

 収益用不動産を購入する際には利回りだけではなく、空室率も検討することを強くお勧めします。