賃貸借契約をオーナー(賃貸人)側から解約できる場合

 賃貸物件のオーナー様から、「賃借人を追い出したい」との相談を受けることがあります。

 この場合は借地借家法に従うことになりますが、具体的には賃貸人に退去をお願いする「正当事由」が存在するか、または「賃貸人および賃借人相互の間における信頼関係を破壊する行為」が行われたかを検証して判断することになります。

 賃借人が退去を拒否した場合、オーナー(賃貸人)は裁判を提起して明け渡し請求をすることになります。裁判所は退去を求める正当事由の有無、および賃貸人および賃借人相互の間における信頼関係を破壊する行為の有無により明け渡し請求の可否を判断します。

1.正当事由の有無
 具体的には、以下の場合に退去が認められることが多いです。 
・建物が朽廃しており、賃借人が安全に居住できないと認められる場合
 単に建築してから相当な年数を経過しているというだけでは不十分であり、賃借人を安全に居住させることが出来ないことが客観的に証明される場合に「正当事由あり」となります。例えば、建物の耐震診断をしたところ、大地震の際に崩壊する可能性が高いことが判明した場合が該当します。

 裁判所は上記の事情に加え、相応の立退料が支払われている場合に「正当事由あり」と認めます。

・建物の敷地である土地の権利が借地権である場合に、何らかの理由により借地契約が解約された場合
 地代や更新料の不払いにより借地契約が解約された、または借地権自体が何らかの理由により消滅した場合が該当します。

 裁判所は上記の事情に加え、相応の立退料が支払われている場合に「正当事由あり」と認めます。

・建物が火災により焼失した、または地震や土石流などの災害により建物が失われたことから賃貸借契約の継続が不能になった場合
 建物が失われた場合は賃貸借契約を継続できません。この場合は賃貸借契約を解約する正当事由があると認められます。

 なお、建物の消滅だけで賃貸借契約が自動的に終了することはありません。令和2年4月に施行された改正民法および関連法により、賃貸借契約の終了時期は賃貸人側から賃貸借契約の解約を賃借人に申し出た時とされています。

2.賃貸人および賃借人相互の間における信頼関係を破壊する行為
 借地借家法が定める要件ですが、具体的な例をあげると数多くあります。

・家賃及び共益費の支払いを3か月以上滞納した場合
 賃貸人側から賃貸借契約の解約を裁判上で主張するための要件は、滞納期間が3ヶ月以上継続していることです。滞納期間が3か月以上続いていないと、裁判所は明け渡し請求の訴状を受理しません。

・賃貸借契約を締結した「本人」が第三者に物件に無断転貸した場合
 賃貸借契約書に物件の転貸を認める条項が記載されていれば転貸が可能ですが、転貸禁止が明記されている場合は賃貸借契約に違反する行為として賃貸人は賃借人に退去を求めることが可能です。

・目的外利用をされた場合
 自己居住用としての利用のみを前提としており、事務所としての利用を禁止する旨の特約が賃貸借契約書に定められている物件で事業を行う行為は目的外利用に該当します。いわゆるSOHOであっても、賃貸人は賃借人に退去を求めることが可能です。

・飼育が禁止されているペットを飼育した場合
 ペットの飼育を禁止している物件であるにもかかわらず、ペットを飼育した場合が該当します。ペット飼育が認められている物件でも、飼育が認められないペットを飼育する行為は「信頼関係を破壊する行為」となり、賃貸人側からの解約が認められます。

・架空の連帯保証人を仕立てる、または職業を偽って入居したことが判明した場合
 詳細は、昨日の投稿を参照願います。

・賃貸物件を犯罪の拠点として利用した場合
 居住目的であると偽って賃貸借契約を締結したものの、実際にはいわゆる特殊詐欺を行うアジトとして利用された、賭博場の運営に利用されたなどの場合が該当します。

・同じ建物に居住する他の入居者とのトラブルが絶えない場合において、トラブルの原因が特定の賃借人にあり、賃貸人が注意しても改善されない場合
 いわゆる「ゴミ部屋」にする、深夜に大音響の音楽をかける、野鳥や野良猫を数多く招き入れる、他の入居者に暴力を振るう等の行為を行う賃借人がたまにいます。

・賃借人が犯罪行為を行ったことから逮捕され、家賃の滞納が長期にわたることが確実な場合
  勾留されている状態が長期にわたることが確実であり、その間の家賃の支払いが出来ない場合は賃貸人側から「解約」を主張できると考えられます。なお、「解約」の有効性を裁判で争うことは少なく、拘置所等で本人と面談し、本人から自発的に退去の意思を取り付けることが多いです。退去の時期や方法は、個別の事情を考慮して決めます。

・単身者用の部屋に複数の友人を招き入れ、常時宿泊させる行為繰り返し行われた場合
 特に大学生の場合に、該当する事例がよくあります。賃貸人の注意により大抵は解消されるのですが、しばらくすると再び友人達が招き入れられ、常時宿泊することが当たり前になることがあります。

・その他
 他にも数多くあります。