不動産会社売主の中古戸建住宅、区分マンションの購入は避けるべきか

住宅をお探しのお客様から「不動産会社が売主の物件は、探索の対象から外して欲しい。」と言われることがあります。理由をお尋ねすると、「不動産会社の利益が上乗せされているから高い。儲けさせたくない。」とか「消費税が上乗せされているから避けたい。」と回答される方が多いです。不動産に関する市販の解説本の中には「不動産会社を儲けさせる理由はない。避けるべき。」と堂々と書いているものがあります。

この見解ですが、私は正しい見解であるとは思えません。不動産業者ではない個人の方が売主の物件であれば良いのでしょうか。
個人の方が売主の物件でも、保有期間の間に最寄り駅近くで再開発が行われたとか、道路整備が行われてバイパスが開通した等の理由により、価格が大幅に上昇したものがあります。このような物件を購入すると、売主である個人の方は莫大な利益を得ることがあります。売主が不動産業者ではなくでも、その不動産を購入することにより売主を大儲けさせることがあります。売主を儲けさせるのがいけないのであれば、売主が不動産業者ではない個人の場合も同じです。

また、不動産会社を儲けさせるからいけないとすると、新築マンションや新築戸建住宅を買えないことになります。これらのほぼ全ては、不動産会社が売主です。

そもそも、日本の社会構造として、物を安く仕入れた後に利益を乗せて売るというのは「正当な商行為」であり、批判を受ける謂れはありません。
例えば、自動車を購入する場合はディーラーや自動車販売店において購入するのが大半ですが、その際に「利益を乗せて販売するところからは買わない」とすると、どこからも買えないことになります。個人間売買を行う場合でも、親友間における売買でもなければ、売主は多少の利益を上乗せすることが大半であると思われます。

食料品スーパーは、利益を得てはいけないのでしょうか。大工に家を修繕させる際に利益を与えてはいけないのでしょうか。少し考えれば、おかしいことは自明です。

不動産会社売主の物件は、利益を上乗せされてるために高額か

結論から申し上げると、売り出し直後の非公開物件を除き、決して高額ではないものが大半であると思います。
物件によりやや高いと思われることがあるのは、不動産会社が売主の物件では、その多くがリフォームまたはリノベーションを行っており、その費用の一部が上乗せされていることがあるからです。

不動産業者ではない個人が売主の不動産では、リフォームやリノベーションをすることなく、現状で売却されることが大半です。雨漏りがあっても、応急修理しか行わずに引き渡されることがあります。壁クロスの張り替え等は行わず、キッチンユニットや洗面台などの水回りに故障箇所がある場合でも、そのまま引渡されることが大半です。
リフォームやリノベーションはもちろん、雨漏り、水回りの故障を修繕する費用は原則として購入者負担です。現状引渡の場合は、後で何らかの不具合が見つかっても売主に請求できることは稀です。この場合は、全て買主の負担で解決しなければなりません。

不動産会社が売主の戸建住宅及び区分マンションには「契約不適合責任」を追うことが義務づけられています。これは令和2年4月から施行された改正民法により定められた責任であり、通常は引き渡し後2年間、その責任を負う旨が契約書に記載されます。

購入した不動産および付随する設備に不具合がある場合において、当該不具合が重要事項説明書や契約書に記載されていない場合は追完請求(補修請求)ができます。売主が追完または補修をできない場合は、買主は代金の減額請求、損害賠償請求、場合により契約解除を行うことができます。
この「契約不適合責任」を回避するために、不動産会社が売主として販売する物件の大半はリフォームやリノベーションを行います。水回り設備等が傷んでいる場合は、新品に交換することが多いです。

しかし、不動産業者ではない個人が売主である不動産には契約不適合責任は適用されません。売主も買主も知らない不具合が後で見つかった場合に、売主には賠償する義務はありません。買主の負担で解決する必要があります。

不動産会社が売主として販売する戸建住宅、および区分マンションの販売価格には相場があり、これを大きく逸脱した物件は売却出来ません。特に販売直後の非公開物件を除き、相場を大きく上回る物件価格で市場に展開されることはほとんどありません。

不動産会社が売主の中古物件は、イメージとして自動車ディーラー直営の中古車販売店で販売している中古車と同じであると考えていただいて構いません。

不動産会社売主の物件における消費税の取り扱い

「不動産会社売主の物件には消費税が上乗せされているから高い」と言う声をたまに聞きますが、東京都区部では、概してそのようなことはありません。
消費税は建物のみに課税されます。土地およびマンションの敷地は非課税です。中古物件の場合、建物については建築後の経過年数に伴い減価します。木造で築15年程度の物件であれば、新築の4~5割程度の価格になります。それに東京都区部では土地の価格が建物価格よりも遥かに高額です。従って、建物にかかる消費税を物件価格に含めた価格を表示して取引するのが通常です。

消費税を価格に上乗せしたら、不動産業者ではない個人の方が売主である物件ばかりが売れることになりかねません。このため、不動産会社が売主である物件の税込み価格は、不動産業者ではない個人の方が売主である物件の価格とほぼ同額になるように設定しています。つまり、売主である不動産会社が消費税相当額を値引きしている事が多いといえます。なお、将来において消費税率が上げられた場合は、この慣行は見直されるかもしれません。

不動産会社が売主の不動産における価格が、不動産業者ではない個人の方が売主の不動産における価格よりも高いと思えることがある理由は、リフォームやリノベーションを行った価格の一部が上乗せされていることがあるからです。消費税が上乗せされているからではありません。

まとめ

不動産会社売主の中古戸建住宅、区分マンションの購入が損になることはありません。これらの物件を探索範囲から除外することは、よりよい物件に出会う機会を失うことになります。御注意いただければ幸いです。