収益用不動産を購入する際における注意点(その1、利回り)

最近、相続税の節税に利用できるとか、副業を立ち上げたいという理由で収益用不動産を購入したいという方が増えています。

本日から4回に分けて、「収益用不動産を購入する際における注意点」を書きます。(書き切れない場合は、5回目以降に続くかもしれません。)

収益用不動産の多くはかなり高額であることから莫大な利益を狙える物件があり、媒介仲介を成約させた際には仲介手数料を多く貰えます。これらの理由により、収益用不動産の売買および売買仲介に参入する不動産会社が増えており、宣伝しています。

サラリーマンの方も、区分の賃貸用ワンルーム(または1K)マンションを1室購入すれば大家になれます。都区部、川崎、横浜には1,000万円以下で購入できる物件が多くあります。このため、ワンルームの区分マンションを手に入れることにより、家賃を副収入に出来るとの謳い文句で売り出している会社があります。

また、1棟ものの賃貸マンションやテナントビルであれば、より大きな利益を狙えるとして、これらの収益用物件が多く建設されています。

収益用不動産購入に際しては、自分が居住するための住宅を購入するのとは異なり、注意が必要な点がとても多くあります。

個人および法人の別を問わず、収益用不動産を購入する行為は「不動産業者」という「事業者」の行為であると見做されます。自分の住宅を購入する場合は「消費者」として様々な法制度により保護されます。しかし、「事業者」は「消費者」ではないので、法制度による保護はかなり限定されます。

ましてや、何しろ莫大な利益を見込めるという理由のみで収益用不動産の売買に参入している不動産会社が多くあります。このような不動産会社から見た場合、不動産投資を初めて開始される方は絶好の鴨です。
販売する物件の予想収入額や利回りを実際より誇張するとか、契約不適合責任の免責条項を契約書に記載してそのことを説明しない、購入者が一方的に不利になる条件でサブリース契約を締結させる等は、このような不動産会社の常套手段です。

また、収益用不動産の特性として、レインズに掲載されることなく非公開で取引される物件が多いため、近隣の物件と比べた場合の価格が妥当なのかがわかりにくいです。

さらに中間省略登記で取引されることがよくあります。このような物件では登記簿上の所有者と実際の所有者とが異なることがあります。この場合には、単なる登記未了なのか、無権利の第三者が「自分が所有者である」と偽っていないかについて、予め調べておく必要があります。詳細は改めて書きますが、「商流表」が正しいかを確認する必要があります。

これらは明日以降の投稿において、個々に説明させていただきます。

収益用不動産の購入には事前知識が必要です。候補となりそうな物件が見つかった場合でも、御自身で十分に調査する必要があり、そのためにはある程度の事前知識が欠かせません。一定レベルの知識が積み上げられるまでは、収益用不動産の購入を安易に行うべきではありません。賃貸住宅の経営で成功している事業家は、御自身で十分に知識を蓄え、御自身で調査されます。そして納得した場合に初めて購入されます。

収益用不動産を購入する際には、不動産会社が伝える内容をそのまま鵜呑みにしたり、全て任せてはいけません。最悪の場合には、購入後数年以内に破産に追い込まれてしまいます。

購入する収益用不動産を決める際に、賃料や表面利回りのみで判断するのは危険

楽待、健美家等の収益用不動産物件ポータルサイトや、不動産会社に相談した際に渡される物件概要書には、年間の想定収入が記載されています。賃料7万円のワンルームが30室あるマンションであれば7×30=210万円が毎月の収入であり、210万円×12=2520万円が年間収入です。このマンションの価格が3億円であれば、2520万円÷3億円×100=8.4%が表面利回りとなります。

定期預金等の利率と比較すると利回りが高いので、不動産投資の初心者はかなり興味を持たれると思います。しかし、表面利回りは参考になりません。実質利回りが重要な指標になります。

実質利回りは、年間の賃料収入から年間の支出額を差し引いた金額を購入金額で除した割合をパーセントで表した数値です。ところが、この実質利回りは、計算式を当てはめて正確に計算することが困難です。設備等の故障の発生頻度は物件毎に異なりますし、入居者の平均的な入居期間も物件毎に異なるからです。

差し引く対象になる支出項目は以下の通りですが、収益用不動産物件ポータルサイトや、不動産会社に相談した際に渡される物件概要書に記載されている「実質利回り」は以下の1および2のみ、または1~3のみを差し引きの対象として算出していることが大半です。

1.土地および建物に係る固定資産税および都市計画税
2.管理費および修繕積立金(賃貸用区分マンションの場合)
3.入居者からの問い合わせ、家賃の集金および振込等の管理を外部委託する場合は、その費用
  管理を外部委託する場合は、管理会社や管理内容によるが、概ね賃料収入の5~8%
4.建物、外階段の定期的な外壁塗装、および屋根の維持費用
  10~15年に一回程度の大規模修繕が必要と想定し、按分
5.廊下や階段における照明器具の電気料金
6.植栽がある場合は、水道料金と剪定の費用
7.廊下や階段、ゴミ置き場清掃の外注費用
8.損害保険料
9.建物および設備の減価償却費
10.金融機関からの融資を受けて購入する場合は、借入金の利息
11.エレベーターおよびオートロックの修繕費、維持費および電気料金
  10年に一回程度の大規模修繕が必要なので、按分する
12.入居者が退去した場合におけるリフォーム費用(自然損耗の修復費はオーナー負担)
  都区部では、入居後4~6年程度で退去される方が多い。通常は、退去後にリフォームを行う
13.室内設備(エアコン、キッチンユニット、トイレ温水暖房便座、湯沸かし器など)の交換費用
  概ね8~10年に一回程度の交換が必要
14.新しい入居希望者を募るための仲介手数料等(都区部では通常、賃料1か月分)
  都区部では、入居後4~6年程度で退去される方が多い
15.所得税、事業税(利益が出た場合)

何年かに一回発生する費用は総費用を見積もり、各年の費用に按分しておく必要があります。
入居者の入れ替わりは概ね4~6年毎にあると考えておくのが無難です(都区部の場合)。

多くの支出項目がありますが、中古物件であれば支出費用の実績を取り寄せて総支出額を計算し、実質利回りの概算を算出できます。しかし、新築物件の場合は実績がないので、費用の想定はかなり難しいです。

新築物件であれば当面の修理費用が少なく、空室になった場合でも短期間に次の入居者を募集できることが多いので安心であると考える方が多いのですが、新築物件は収益性の判断が難しいと言えます。

表面利回りが約8%の物件でも、実質利回りは4~5%に満たない物件があります。金融機関からの融資を受けて購入する場合の利息は2~4%程度のことが多いので、最終的な利回りは1~2%程度になります。収益用不動産の購入は「事業」の一環として行われることから、住宅ローンの場合における低利率は適用されません。

最終的な利回りが1~2%程度にしかならない物件を、金融機関から融資を受けて購入するべきではありません。

概算でも構わないのですが、前述した各項目を勘案した上で実質利回りを算出する必要があります。賃料の総額や表面利回りのみに注目して購入の可否を決めることは極めて危険です。くれぐれも御注意ください。