不動産売買において、決済前における入居やリフォームは可能か

当社が売主の戸建住宅に対する購入希望者が現れました。このお客様は「引き渡された後に室内をリフォームしたい。」とのことで、リフォーム箇所と工務店を決めた後に売買契約を済ませました。
住宅ローンの利用を前提としており、契約書にはローン特約を記載しました。住宅ローンの成否がわかるまでには約2週間を要するとのことなので、決済日を3週間後に設定しました。

住宅ローンの成否が判明しておらず、決済日は2週間後という時点で、リフォームを行う工務店から連絡がありました。

工務店の棟梁:「2週間後には他の工事の予約が入っているので、今すぐにリフォーム工事を始めたい。このため、鍵を渡して欲しい。決済が2週間先なのは承知している。決済後にリフォームを行う場合は2か月先以上先になる。」

購入希望者からも「決済前であるがリフォームを始めたい。何とかならないか。」という連絡がありました。

お客様の希望を第一に考えるとしても、売主としては絶対に応じることができない申し出です。売主が不動産会社ではない、一般の方でも同様です。このご要望には、以下の問題があります。

1.住宅ローン不成立の場合、売買契約は白紙撤回になり、工事代金を売主が負担する必要が生じます。

リフォーム工事後に売買契約が白紙撤回になると、リフォーム工事を行った工務店は不当利得返還請求権の行使により、売主にリフォーム代金を請求する恐れがあります。

2.リフォームを行う工務店に建物の鍵を渡した時点で建物の占有権は購入希望者に移転し、引渡が行われたと見做されます。

決済未了の状況で占有権を移転させることは全く考えられません。買主に占有権のみを先に移転させると決済時に売買代金の減額を要求されることがあり、この場合の対応が困難です。

3.危険負担を誰が負担するかが問題になります。

例えば、リフォーム工事中に火災が発生し、建物が全焼したために引渡不能になった場合の損失を誰が負担するかが問題となります。

所有権は売主にあるものの、占有権は購入希望者に移転しています。このため、工事代金の支払いをどうするかを含め、法律上の処理が極めて複雑になります。

以上の理由により、この申し出はお断りするしかありませんでした。購入希望者は売買契約を解約できますが、手付金の放棄が必要です。このため、解約されることはありませんでした。
その後、住宅ローンが無事に成立し、決済および引渡をしました。

そもそも、この問題はリフォーム工事の開始時期に関する問題であり、購入希望者と工務店との間で解決するべき問題です。リフォーム工事の開始が遅くなることが問題であれば、工務店を変えれば良いという話になります。売主がリスクを負担する必要は全くありません。

購入希望者が、決済前の入居を希望する場合も同様です。決済が終わるまで、売主は鍵を渡してはいけません。

引越業者の都合により、家財の搬入を決済前に行いたいという希望が出ることがあります。この場合、鍵の開錠および施錠は売主が行い、鍵の引渡は決済後にするべきです。家財が搬入されたとしても、鍵を渡さなければ占有権は移転しません。占有権の移転は、決裁時に鍵を交付することで行うことになります。