不動産売買契約の際に、IT重説を行うことが解禁されました

ご承知の通り、不動産賃貸借契約、または不動産売買契約(交換を含む)の締結前には重要事項説明があります。この重要事項説明は宅地建物取引業法第35条第1項により、宅地建物取引士が行うことが義務づけられています。

従来、重要事項説明は「対面」で行わなければならないとされていましたが、2017年より賃貸借契約については所定の条件を満たす場合に限り、IT重説を行うことが認められていました。

しかし、売買契約(交換を含む)の締結前に行う重要事項説明は、国土交通省が主催する社会的実験の一環として行う(要登録)場合を除き「対面」で行わなければならず、「IT重説」による重要事項説明は事実上禁止されているに等しい状況でした。

IT重説とは、説明者と相手方が互いにWEBカメラ、マイク、スピーカーを設け、いわゆるテレビ会議形式による書面の提示および説明を行うことによる重要事項説明のことです。関係者が遠隔地にいる場合でも実施できるという利点があります。

令和3年3月30日より、売買契約(交換の場合を含む)を締結する前に行う重要事項説明の際に、IT重説を利用することが可能になりました。別荘などの遠隔地にある不動産を売買する場合、および売主および買主が多忙なために都合を合わせることが難しい場合には大いに役立つと思われます。

IT重説を行う際には、以下の要件を満たす必要があるとのことです。
以下、国土交通省のWEBサイトから引用します。

(1)宅地建物取引士及び重要事項の説明を受けようとする者が、図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ、双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること。
(2)宅地建物取引士により記名押印された重要事項説明書及び添付書類を、重要事項の説明を受けようとする者にあらかじめ送付していること。
(3)重要事項の説明を受けようとする者が、重要事項説明書及び添付書類を確認しながら説明を受けることができる状態にあること並びに映像及び音声の状況について、宅地建物取引士が重要事項の説明を開始する前に確認していること。
(4)宅地建物取引士が、宅地建物取引士証を提示し、重要事項の説明を受けようとする者が、当該宅地建物取引士証を画面上で視認できたことを確認していること。

国土交通省

その他に、国土交通省はIT重説を行う際のガイドラインを定めています。以下、上記の(1)~(4)について、ガイドラインの記載内容から補足します。

(1)宅地建物取引士および重要事項説明を受ける者は、画像および音声の両方について双方向でやりとりしなければなりません。例えば、重要事項説明を受ける方がWEBカメラを持っていない等の理由により、双方向で画像をやりとりできない場合には、IT重説を行えないことになります。なお、利用する機器およびソフトウェアに関する制限は設けられていません。

(2)重要事項説明書および添付書類は、あらかじめ郵送などの方法で原紙を送付しておくことが必須であり、PDFファイルを送付して相手方に印刷してもらう等の方法は認められないとのことです。署名、捺印後に返送してもらう書類については二部を送付し、一部を返送してもらうことにより対応しなければならないとされています。

(3)IT重説の前に通信の状況を確認しておく必要があります。例えば、音声や画像が時々数秒程度停止することがある場合は通信不良と判断されます。この場合は通信環境を改善するか、対面による重要事項説明に切り替える必要があります。

(4)宅地建物取引士は宅地建物取引士証を相手方に提示し、相手方から宅地建物取引士の氏名および登録番号を読み上げてもらうことで確認すること、および宅地建物取引士証の顔写真により、説明者が宅地建物取引士証に記載されている宅地建物取引士であることを確認することが推奨されています。これら一連の行為により、説明者が宅地建物取引士であること、および通信環境が良好であることの「確認」ができたと見做せるとのことです。なお、宅地建物取引士証における住所欄の上にシールなどを貼り、宅地建物取引士の住所が相手にわからないようにすることは、個人情報保護の観点から認められるとのことです。

※その他
重要事項説明を録画する際は、取引関係者の個人情報が記録されることになるので、録画する際には利用目的を明らかにし、宅地建物取引業者が取り扱う個人情報データと同じ扱いをする必要があります。宅地建物取引士は、重要事項説明を受ける方の同意を得なければ録画できず、重要事項説明を受ける者も説明する宅地建物取引士の同意がなければ録画できないと考えるべきであることについても、重要事項説明を開始する前に説明が必要であると思われます。

不動産売買において、IT重説は主流になるか
重要事項説明の聞き手が重要事項説明書の内容に納得できない場合、または契約において定められる特約の内容が法に抵触する旨が指摘された場合は、関係者の間で協議した上で重要事項説明書および契約書における文言の修正や削除をその場で行うことがあります。重要事項説明を不動産会社の事務所において対面形式で行う場合は対応が容易なのですが、IT重説では、その場における対応が困難です。

このような場合は、重要事項説明を後で改めて行うことになり、訂正した書類を再送付する必要があります。つまり、IT重説を利用したために日数を要することになります。

このため、売主において不動産を1日も早く売却したいなどの事情がある場合は、IT重説は不向きです。しかし、関係者双方が遠隔地にいる場合は、IT重説は重宝します。例えば、北海道に在住する投資家が道内に所有する収益物件を東京や大阪の投資家に売却する等の場合です。

IT重説が主流になるかは、取引の事情や内容により変わると思います。売り急ぐ事情がある場合は、IT重説は不適格であると言えるものの、遠隔地の物件に関する取引ではIT重説が主流になると思います。