不動産を内見せずに借りる、または買うことの是非

新型コロナウイルス感染を避けるために「内見を省略したい」という御要望をいただくことがあります。特に首都圏では緊急事態宣言が発令されることになったことから、今後はこのように考える方が増えると思われます。

商魂がたくましい世の中です。内見をしないで不動産取引をしたいというお客様のために、物件内部を動画で撮影する機材を提供し、撮影方法のノウハウを伝授するので、動画編集およびHP公開を行えるシステムを一式で導入しないかというお誘いを多くのシステム会社から受けています。

しかし、自己居住用物件の賃貸および売買について、内見を省略した取引を行うことは借主および買主にとって著しく不利であることからお勧めできないのが現状です。ただし、賃貸中の収益用区分マンションは内見できないことがほとんどなので、収益用不動産については例外となるものがあります。

内見を省略すると、入居した際に様々な問題が生じ、貸主または売主、不動産会社とのトラブルになることがあります。多く発生するトラブルは室内の汚れやキズ、臭い、騒音、設備の故障に関するものです。

内見をしなければわからない諸問題
室内の汚れ、雨漏り
室内の汚れは、写真や動画だけではわからないことが大半です。動画や写真は汚い箇所を写さないようにしていることがよくあります。

ドアや扉におけるキズ、ガラス扉のひび、過去の水漏れによるフローリング床の損傷等が写されていないことがあります。降雨時に雨漏りが発生することから天井に雨染みが生じているのに、その天井を隠す等の悪質な場合もあります。

賃貸物件の場合、退去時に原状回復を求められます。「キズやひび、損傷等は、入居前にはなかった」と貸主が主張した場合に、貸主および借主間におけるトラブルになります。

臭気
室内の臭いは、内見ではわかりません。前の入居者がヘビースモーカーであった場合やペットを飼育していた場合は臭いが室内に残ります。

借主がタバコを吸わない方である場合、タバコ臭が強いということで貸主に対応を求めることになりますが、消臭剤を使用しても完全に消せないことがあります。

ペット飼育不可の物件でも、ペットや排泄物の臭いがすることがあります。前の居住者が貸主に内緒でペットを飼育していた場合、これらの臭いが残ります。残念ながら、完全に消臭できる薬剤がまだ開発されていないため、対応策は限定されます。

騒音
鉄道または高速道路の高架橋、大通り、工場に近い物件の場合、車両の通過音や機械の音がうるさく、振動が激しい場合があります。自衛隊基地、在日米軍基地の近くでは離着陸する航空機等の騒音が激しいところがあります。

また、近隣に大音響で楽器を演奏する方が居住している、または同じ建物内の宗教団体が借りている部屋から鐘および太鼓の大音響が発生する物件があります。

大気汚染
大通りに面し、かつ谷底にある物件では、無風状態の際に車の排気ガスで空気が淀みます。窓を開けると室内に排気ガスが入ることから窓を開けられない物件があります。バルコニーに洗濯物を干すと、煤で黒く汚れることからコインランドリーの利用が欠かせません。

このような物件は不人気なので、質の悪い不動産会社は「内見を省略したい」と申し出たお客様に紹介します。家賃が余程安くなければ、このような物件は借りるべきではありません。

設備の故障
バルコニーのガラス扉が完全に開けられない、施錠できない等のトラブルがあります。通常は、内見の際に指摘し、契約前に修繕することを条件として契約を締結することになりますが、内見を省略して入居または購入してしまうと修理費が発生することから、修理を拒む貸主や売主がいます。

まとめ
自己居住用の物件を借りる、または購入する際に内見を省略することは絶対にお勧めしません。「そんなことはわかっている」と言われる方が多いと思いますが、「内見せずに契約したい」と希望される方が増えていますので、注意喚起の意味で投稿させていただきます。