地面師がなくならない理由

地面師に関する私の経験を一昨日の投稿に書きました。私が懇意にしている都心の不動産会社の社長によると、「地面師なんか、ウチには毎年数人は来ているよ。次から次へ良く来るよ。」とのことです。

品川区五反田のの元旅館に関する地面師詐欺事件では積水ハウスが騙されました。大手の不動産会社が被害に遭ったことから大きく報道されました。地面師グループが身分証明書や印鑑証明、登記済権利証、固定資産評価証明等を偽造し、売主側の人物と称する複数の人物が登場し、話術も巧みであったことから騙されたようです。

私の会社では、売買の取引を持ちかけてきた者が地面師であると少しでも疑われる場合、以後のやりとりに際しては慎重に対応しています。更に怪しい点が発覚した場合には、私の判断で取引を打ち切ります。

「私を信用できないなら他の不動産会社に持って行く。それで構わないね。」等と言われることがあります。このような言葉が発せられたら要注意です。「自分は地面師です」というシグナルである可能性が極めて高いからです。「他の不動産会社に持って行く」という言葉は、「取引に応じろ」と言う意味です。

地面師に騙された不動産会社の担当者の多くは、怪しい点があったことに薄々気付いていることが多いと思います。しかし、自ら取引の中止を切り出すにはとても勇気が要ります。

営業担当にはノルマが課されており、取引の中止を言い渡した場合には上司に報告する必要があります。その際に怒られるのではないかという心理が働きますし、ライバルの不動産会社に物件が流れるのではないかと考えてしまいます。「この取引を行っても大丈夫だ」という判断、いわゆる正常バイアスに則った判断になりがちです。

地面師の中には手付金を持ち逃げすることだけを考えている輩がいます。東京都23区内における住宅地の場合、手付金だけでも1千万円を超えることがよくあります。事業用地では更に高額です。

手付金の授受は契約時に行います。契約時には、登記識別情報通知(または登記済権利証)、売主の印鑑証明書および固定資産評価証明は必ずしも必要ではありません。これらが必要になるのは決済、すなわち残金の支払を行う際です。契約時に必要なのは、売主または代理人の身分証明書(運転免許証、パスポートなど)だけです。

しかし、安全のためにはこれらの書類を「契約前」に確認しておくべきであるという観点から、私の会社では、全ての書類確認を契約前に必ず実施しています。コピーの提出に応じず、かつ提示も拒む場合は取引をお断りするくらいの慎重さが必要であると考えています。

手付金の詐取だけを考えるのであれば、身分証明書以外の書類を偽造する必要はないということで、手付金の詐取を考える地面師が増えているように思います。一昨日の投稿に記載した地面師はこのパターンです。

「今日は手付金をいただきます。登記識別情報通知(または登記済権利証)、売主の印鑑証明書および固定資産評価証明は決済の際にお持ちします。それでよろしいでしょう。」等と言われた際に、怪しいと思うか否かで地面師との勝負が決まります。書類を契約前に提示しない場合は要注意です。「大丈夫だろう」と過信していると騙されることになります。

不動産会社が地面師に騙された場合、このことを不動産会社の「恥」と考える経営者が多いです。このため、騙された事実があっても警察に届けることなく済ませてしまうことがあります。被害届が警察に提出されないことが、地面師がなくならない理由であると考えられます。