地面師に要注意

地面師とは、不動産の所有者または所有者の代理人とは無関係であるにもかかわらず、不動産の所有者または所有者の代理人であると偽り、不動産の売却を持ちかけて多額の金銭を騙し取る輩のことです。

2017年に、品川区五反田にある元旅館の一等地を売却する話を持ちかけれられたハウスメーカー(積水ハイス)が数十億円を騙し取られました。この事件はマスコミに大きく取り上げられました。

1.地面師に遭遇した経験
私の会社に土地の売却話を持ちかけてきた者が地面師であったことがあります。所有者の代理人として、東京都23区内における、ある住宅用地の売却話を持ちかけてきました。

この土地は更地であり、競売にかけられることが決定していました。隣地の所有者が件の土地の所有者に対し約1千万円の債権を持っており、弁済を受けたいとして裁判所に件の土地の差押を申し立て、裁判所の判決により競売開始が決定したという経緯があります。

所有者の代理人と自称する人物が突然私の店に現れ、「私は土地所有者および隣地所有者の双方を知っており、競売にかけられることが決まった土地における所有者の代理人です。競売が実行されると安く売られてしまうので、その前に1日も早く売却したい。」と言われました。いわゆる任意売却の話を持ちかけられたわけです。

代理人であることを示す委任状と印鑑証明を見せて欲しいとお願いしたところ、「今日は忘れました。お話が前向きに進むようであれば、その際に改めて持参します。」とのことでした。
(この時点で、やや怪しいと思いました。)

この土地は敷地延長型(いわゆる旗竿地)ですが、旗竿の部分が狭く、最も狭いところでは1.6mしかありません。しかも、旗竿の竿の部分は第三者の土地でした。いわゆる他人の土地を通らなければ前面道路から敷地には行けない土地であり、「建築禁止」の土地に該当します。

土地所在地の区役所に確認したところ、1.6mの幅を物理的に広げ、広げた状態で境界線を確定し、最も狭い場所の幅を1.8m以上にすることが、建築審査会の審査にかけられる最低の要件でした。建築基準法は2.0m以上でなければ建築不可であると定めていますが、安全上の問題が無いことを建築審査会が認めた場合は建築が許可されます。

このため、件の代理人を名乗る者から、任意売却に先立ち竿部分(通路)の拡張をする交渉をして欲しいという話が出てきました。

しかし、この交渉はとても困難です。通路を広げると、通路の隣地が狭くなります。両サイド共に借地であったため、土地賃貸借契約を変更しなければなりません。この場合は現契約を一旦終了させ、新たに契約を締結することになります。借地権料、新たな地代、更新料の金額について、話し合う必要があります。通路の隣地に建物を所有する借地権者は、建物の建て替えの際に従来と同じ規模の建物を建てることが出来なくなります。このため、通路部分の隣地所有者および借地人に対する補償金が必要になります。それに境界線を新たに設定し直す際には土地家屋調査士による測量および登記が必要であり、相応の費用が発生します。

長期間の話し合いが必要であり、競売の実行に間に合いません。それ以前に断わられることがほぼ確実です。さらに、競売にかけられている土地の所有者が、高額な補償金や測量・登記の費用を支払えるはずがありません。

土地所有者の代理人と自称する者に、競売の実行前には間に合わないし補償金をどうするのかを尋ねたら、「何でも良いから通路を拡張する内容で土地の賃貸借契約書を作成し、不動産買い取り業者に買い取るように言って欲しい。」と言います。

さらに調査を進めると、件の土地の所有者は病気のために意思疎通が全く出来ない状態であることがわかりました。意思疎通が出来ないのであれば、代理権の授与はできません。成年後見人が指名されている場合でも、法務局は売買による土地所有権移転登記を認めません。もはや、この土地を不動産競売以外の方法で売却することはできないことになります。

そこで私は、土地所有者の代理人と自称する者に対し、代理権を授権していることを示す委任状と本人の印鑑証明を提示するように再び求めました。ところがこれを拒否し、以後の電話は一切通じなくなりました。これにより、件の代理人を名乗る者は表見代理であり、地面師であることが確定しました。

その後、この土地に対する競売が実行され、買受人が決まり、所有権移転登記が行われました。

2.不動産の素人が地面師稼業を始める、恐ろしい状況
積水ハウスの件は、売主や親族であると偽った「成りすまし」が複数登場し、偽造したパスポートや印鑑証明を使用する、手の込み入った犯罪であったと言えます。

今回、私が遭遇した地面師はそのような「成りすまし」を登場させることなく、偽造した印鑑証明書を提示することもないという、お粗末で単純な未遂犯でした。

それに、対象とする不動産は購入を希望する方がほとんど誰もいないと思われる、建築不可の更地でした。旗竿地であり、最も狭い場所の幅が1.6mしかないことから資材置き場にもなりません。このような利用価値のない土地をターゲットにしていることからも、件の地面師は不動産に関する素人であることがわかります。

街中の小さな不動産会社であれば簡単に騙せると錯覚したのでしょう。不動産買い取り業者から手付金だけでも騙し取ろうと考えたのだと思います。通路部分を広げて建築可の土地にした場合、売買契約における手付金は600万円~1,200万円(価格の5~10%とした場合)になります。

「地面師になれば荒稼ぎできる」と考えるのは極めて浅はかです。不動産売買を生業として行っている不動産会社であれば、それが小さな会社であっても地面師に何回も遭遇し、見破っています。

何回か繰り返せば、必ずどこかで発覚して通報されます。その後は刑事事件として立件されて処罰されます。刹那的な快楽(外車の購入、遊興費等)を求めて地面師稼業を始める輩が多いようですが、「地面師になって大儲けしよう。」とは絶対に考えないでください。