賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律について(その3)

昨日は、この法律の第29条について説明しました。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の骨格となる部分は以下の通りです。

1.サブリース事業者および勧誘者(簡単に言うと収益物件の建設を立案した不動産会社、建築会社等)において、以下の行為を禁止
①勧誘時において、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をするなどの不当な行為(第28条)
②不当な勧誘、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為(第29条)

2.サブリース業者と所有者との間に賃貸借契約が締結される前に、重要事項説明を義務づけ

3.賃貸管理事業者登録制度の創設
法律の骨格部分

本日は、上表の2について説明します。

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律
(特定賃貸借契約の締結前の書面の交付)
第三十条 特定転貸事業者は、特定賃貸借契約を締結しようとするときは、特定賃貸借契約の相手方となろうとする者(特定転貸事業者である者その他の特定賃貸借契約に係る専門的知識及び経験を有すると認められる者として国土交通省令で定めるものを除く。)に対し、当該特定賃貸借契約を締結するまでに、特定賃貸借契約の内容及びその履行に関する事項であって国土交通省令で定めるものについて、書面を交付して説明しなければならない。
2 特定転貸事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該特定賃貸借契約の相手方となろうとする者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該特定転貸事業者は、当該書面を交付したものとみなす。
法第30条

マスターリース契約の締結に当たり、家賃改定条件、契約解除条件等について、オーナーとなろうとする者に十分な説明を行わず、契約内容を誤認させたまま、契約を締結させる悪質業者が存在し、オーナーとの間で大きなトラブルが多発しています。

このため、オーナーとなろうとする者が契約内容を正しく理解した上で、適切なリスク判断のもと、マスターリース契約を締結することができる環境を整えるため、本法では、サブリース業者に対し、契約締結前にオーナーとなろうとする者に書面を交付し、説明することを義務づけています。

以下、国土交通省が定めるガイドラインから抜粋した内容を基に、適宜補足しながら説明します。

1.重要事項の説明者
サブリース業者の誰が説明するかに関する法律上の定めはありません。
しかし、オーナーになろうとする者が十分に理解をした上で契約締結の意思決定ができるよう、一定の実務経験を有する者や賃貸不動産経営管理士等による説明が行われることが望ましいとされます。

国土交通省が作成したガイドラインには記載されていませんが、不動産賃貸または賃貸管理に関する十分な実務経験がある宅地建物取引士であれば、重要事項説明を行っても問題ないと考えられます。

2.重要事項説明のタイミング
オーナーとになろうとする者がマスターリース契約の内容を十分に理解するための熟慮期間を与えることが必要であり、重要事項説明から契約締結までに1週間程度の十分な期間をおくことが望ましいとされます。

重要事項説明から契約締結までの期間を短くする場合は事前に重要事項説明書等を送付し、重要事項説明は送付の一定期間後に実施することにし、オーナーになろうとする者が契約締結の判断を行うのに十分な時間を与えることが望ましいとされます。

3.説明の相手方の知識、経験、財産の状況等に応じて説明
説明の相手方の知識、経験、財産の状況、賃貸住宅経営の目的やリスク管理判断能力等に応じた説明を行うことが望ましいことから、説明の相手方の属性やこれまでの賃貸住宅経営の実態を踏まえ、以下の点に留意して説明を行うことが必要です。
・説明の相手方の賃貸住宅経営の目的・意向を十分確認すること。
・説明の相手方の属性や賃貸住宅経営の目的等に照らして、マスターリース契約のリスクを十分に説明すること。

物件のオーナーになろうとする者がマスターリース契約に対する一定の知識や経験がある場合でも、次項4の記載事項に掲げる事項を重要事項説明書に記載し、説明することが必要です。

説明の相手方が高齢の場合は、過去に賃貸住宅経営の経験が十分にあったとしても、身体的な衰えに加え、短期的に判断能力が変化する場合もあることから、説明の相手方の状況を踏まえて、慎重に説明することが必要です。

4.重要事項の説明事項
サブリース業者は、契約締結前に以下の【記載事項】①~⑭を書面に記載し、説明しなければなりません。
その際には以下の事項に注意が必要です。

・書面の内容を十分に読むべき旨を太枠の中に太字波下線で、日本産業規格Z8305に規定する12ポイント以上の大きさで記載する。

・書面の内容を十分に読むべき旨の次に、借地借家法第32条、借地借家法第28条の適用を含めたマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載する。

・書面には日本産業規格Z8305に規定する8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いる。

・サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額の記載の次に、当該額が減額される場合があること及び借地借家法第32条の概要(契約の条件にかかわらず借地借家法第32条第1項に基づきサブリース業者が減額請求を行うことができること、どのような場合に減額請求ができるのか、オーナーは必ずその請求を受け入れなくてはならないわけではないこと等)を記載する。

・契約期間の記載の次に、借地借家法第28条の概要(借地借家法第28条に基づき、オーナーからの更新拒絶には正当事由が必要であること等)を記載する。

【記載事項】
①マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、名称又は氏名及び住所
 
②マスターリース契約の対象となる賃貸住宅
・マスターリース契約の対象となる賃貸住宅の所在地、物件の名称、構造、面積、住戸部分(部屋番号、住戸内の設備等)、その他の部分(廊下、階段、エントランス等)、建物設備(ガス、上水道、下水道、エレベーター等)、附属設備等(駐車場、自転車置き場等)等について記載し、説明する。

③契約期間に関する事項
・契約の始期、終期、期間及び契約の類型(普通借家契約、定期借家契約)。

・特に、契約期間は、家賃が固定される期間ではないことを記載し、説明する。

④マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件並びにその変更に関する事項
・サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額、支払期限、支払い方法、家賃改定日等を記載し、説明する(家賃の他、敷金がある場合も同様とする。)。

・サブリース業者がオーナーに支払う家賃の設定根拠について、近傍同種の家賃相場を示すなどして記載し、説明する。

・特に、契約期間が長期である場合などにおいて、オーナーが当初の家賃が契約期間中変更されることがないと誤認しないよう、家賃改定のタイミングについて説明し、当初の家賃が減額される場合があることを記載し、説明する。

・さらに、契約において、家賃改定日が定められていたとしても、その日以外でも、借地借家法に基づく減額請求ができることについても記載し、説明する(詳細は⑭)。

・また、入居者の新規募集や入居者退去後の募集に、一定の時間がかかるといった理由から、サブリース業者がオーナーに支払う家賃の支払いの免責期間を設定する場合は、その旨を記載し、説明する。

⑤サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
・サブリース業者が行う維持保全の内容について、回数や頻度を明示して可能な限り具体的に記載し、説明する。

・維持保全の内容としては、住戸や玄関、通路、階段等の共用部分の点検・清掃等、電気設備、水道設備、エレベーター、消防設備等の設備の点検・清掃等、点検等の結果を踏まえた必要な修繕等が考えられる。

・賃貸住宅の維持保全と併せて、入居者からの苦情や問い合わせへの対応を行う場合は、その内容についても可能な限り具体的に記載し、説明する。

・維持又は修繕のいずれか一方のみを行う場合や入居者からの苦情対応のみを行い維持及び修繕(維持・修繕業者への発注等を含む。)を行っていない場合であっても、その内容を記載し、説明することが望ましい。

⑥サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項
・サブリース業者が行う維持保全の具体的な内容や設備毎に、オーナーとサブリース業者のどちらが、それぞれの維持や修繕に要する費用を負担するかについて記載し、説明する。

・特に、オーナーが費用を負担する事項について誤認しないよう、例えば、設備毎に費用負担者が変わる場合や、オーナー負担となる経年劣化や通常損耗の修繕費用など、どのような費用がオーナー負担になるかについて具体的に記載し、説明する。

・修繕等の際に、サブリース業者が指定する業者が施工するといった条件を定める場合は、必ずその旨を記載し、説明する。
 
⑦マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
・サブリース業者が行う維持保全の実施状況について、オーナーに報告する内容やその頻度について記載し、説明する。

⑧損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
・引渡日に物件を引き渡さない場合や家賃が支払われない場合等の債務不履行や契約の解約の場合等の損害賠償額の予定又は違約金を定める場合はその内容を記載し、説明する。

⑨責任及び免責に関する事項
・天災等による損害等についてサブリース業者が責任を負わない場合は、その旨を記載して説明する。

・オーナーが賠償責任保険等への加入をすることや、その保険に対応する損害についてはサブリース業者が責任を負わないことにする場合は、その旨を記載して説明する。

⑩転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
・反社会的勢力への転貸の禁止や、学生限定等の転貸の条件を定める場合は、その内容について記載し、説明する。

⑪転借人に対する⑤の内容の周知に関する事項
・サブリース業者が転借人に対して周知を行う以下に掲げる維持保全の内容についてどのような方法(対面での説明、書類の郵送、メール送付等)で周知するかについて記載し、説明する。

・サブリース業者が行う維持保全の具体的な内容(住戸や玄関、通路、階段等の共用部分の点検・清掃
等、電気設備、水道設備、エレベーター、消防設備等の設備の点検・清掃等、点検等の結果を踏ま
えた必要な修繕等)、その実施回数や頻度を記載し、説明する。

・サブリース業者が行う入居者からの苦情や問い合わせへの対応の具体的な内容(設備故障・水漏れ等のトラブル、騒音等の居住者トラブル等)、対応する時間、連絡先

⑫マスターリース契約の更新及び解除に関する事項
・オーナーとサブリース業者間における契約の更新の方法(両者の協議の上、更新することができる等)について記載し、説明する。

・オーナー又はサブリース業者が、契約に定める義務に関してその本旨に従った履行をしない場合には、その相手方は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、契約を解除することができる旨を記載し、説明する。

・契約の解約の場合の定めを設ける場合は、その内容及び⑧について記載し、説明する。

・契約の更新拒絶等に関する借地借家法の規定の概要については、⑭の内容を記載し、説明する。

⑬マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項
・入居者の居住の安定を図るため、マスターリース契約が終了した場合、オーナーがサブリース業者の転貸人の地位を承継することとする定めを設け、その旨を記載し、説明する。

・特に、転貸人の地位を承継した場合に、正当な事由なく入居者の契約更新を拒むことはできないこと、サブリース業者の敷金返還債務を承継すること等についてオーナーが認識できるように説明する。

⑭借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要
a. 借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)について
・マスターリース契約を締結する場合、借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)が適用されるため、サブリース業者がオーナーに支払う家賃が、変更前の家賃額決定の要素とした事情等を総合的に考慮した上で、
①土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により不相当となったとき
②土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により不相当となったとき
③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき
は、契約の条件にかかわらず、サブリース業者は家賃を相当な家賃に減額することを請求することができること及び空室の増加やサブリース業者の経営状況の悪化等が生じたとしても、上記①~③のいずれかの要件を充足しない限りは、同条に基づく減額請求はできないことを記載し、説明する。

・特に、契約において、家賃改定日が定められている場合や、「一定期間サブリース業者から家賃の減額はできないものとする」、「○年間は家賃の減額をできないものとする」、「オーナーとサブリース業者が合意の上家賃を改定する」等の内容が契約に盛り込まれていた場合であっても、借地借家法第32条第1項に基づき、サブリース業者からの家賃の減額請求はできることを記載して説明し、オーナーが、これらの規定により、サブリース業者からの家賃減額はなされないと誤認しないようにする。

・さらに、借地借家法に基づき、サブリース業者は減額請求をすることができるが、オーナーは必ずその請求を受け入れなければならないわけでなく、オーナーとサブリース業者との間で、変更前の家賃決定の要素とした事情を総合的に考慮した上で、協議により相当家賃額が決定されることを記載し、説明する。
(家賃改定額について合意に至らない場合は、最終的には訴訟により決することになる。)

b. 借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)について
・普通借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)が適用されるため、オーナーから更新を拒絶する場合には、
 ①オーナー及びサブリース業者(転借人(入居者)を含む)が建物の使用を必要とする事情
 ②建物の賃貸借に関する従前の経過
 ③建物の利用状況及び建物の現況並びにオーナーが建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えにサブリース業者(転借人(入居者)を含む)に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければすることができない旨を記載し、説明する。

・特に、契約において、オーナーとサブリース業者の協議の上、更新することができる等の更新の方法について定められている場合に、オーナーが、自分が更新に同意しなければ、サブリース業者が更新の意思を示していても、契約を更新しないことができると誤認しないようにする。

c. 借地借家法第38条(定期建物賃貸借)について
・定期借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、家賃は減額できないとの特約を定めることにより、借地借家法第32条の適用はなく、サブリース業者から家賃の減額請求はできないことを記載し、説明する。

・定期借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、契約期間の満了により、契約を終了することとできることを記載し、説明する。

・定期借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、オーナーからの途中解約は、原則としてできないことを記載し、説明する。