賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律について(その1)

この法律は、令和2年12月15日に施行されました。
今後は、賃貸住宅の運営をサブリース方式で行っている、またはこれから行おうとする場合にこの法律が適用されます。

収益物件のオーナーになろうとされる方の中には、売買不動産および賃貸不動産の経営に関する知識が乏しい方がいらっしゃいます。そのような方が収益物件を探されている際に、一部の不届きなサブリース業者等がマスターリース契約を締結した場合の利点のみを説明する等、契約内容を十分に説明しないことがあります。

酷い場合は事実に反する説明を行い、これを信じた方がマスターリース契約を締結してしまい、オーナーが一方的に不利益を受ける事案が多発していました。

この法律は、このような不合理な結果が生じることを未然に防ぐことを目的として、明文化したものであると考えられます。

今般、国土交通省より運用のためのガイドライン等が公開されました。既に収益物件を保有されている方はもちろん、これから購入することを検討されている方にも是非知っていただきたい法律です。本日から3~4回に分け、この法律について説明します。

骨格になると思われるのは、主に第28条及び第29条です。

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律
(誇大広告等の禁止)
第28条 特定転貸事業者又は勧誘者(特定転貸事業者が特定賃貸借契約の締結についての勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)(以下「特定転貸事業者等」という。)は、第二条第五項に規定する事業に係る特定賃貸借契約の条件について広告をするときは、特定賃貸借契約に基づき特定転貸事業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、特定賃貸借契約の解除に関する事項その他の国土交通省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

(不当な勧誘等の禁止)
第29条 特定転貸事業者等は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者に対し、当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
二 前号に掲げるもののほか、特定賃貸借契約に関する行為であって、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるもの
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(第28条、第29条)

骨子は以下の通りです。

1.サブリース事業者および勧誘者(簡単に言うと収益物件の建設を立案した不動産会社、建築会社等)において、以下の行為を禁止
①勧誘時において、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をするなどの不当な行為(第28条)
②不当な勧誘、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為(第29条)

2.サブリース業者と所有者との間に賃貸借契約が締結される前に、重要事項説明を義務づけ

3.賃貸管理事業者登録制度の創設

本日は、1の①(第28条)について説明します。

この法律の第28条は「勧誘時における、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をするなどの不当な行為」を禁止しています。これには、いわゆる誇大広告を行う、または虚偽広告を行う行為も含まれます。

国土交通省が作成したガイドラインでは、項目を以下の二つに分けて例示しています。規制の対象は全ての広告です。新聞・雑誌広告、パンフレット、ポスター、冊子、動画等、媒体が何であるかを問いません。

・該当する場合には広告に必ず記載しなければならない内容
・広告への記載を禁止する内容

「所有する賃貸マンションを売却したい。サブリース方式による管理を任せていた。マスターリース契約はいつでも解約できると思っていた。これを解約できないと高く売却出来ない。何とかならないか。」という相談が時々あります。

借地借家法は「賃貸人および賃借人相互における信頼関係が破壊されたとき」に賃貸人からの賃貸借契約解除を認めています。お気の毒ですが、マスターリース契約は賃貸借契約の一種ですから、物件を高く売却したいという理由ではマスターリース契約を解約できません。それでもなお解約したいとサブリース業者に申し出た場合、解約に応じてくれることがあり得ますが、高額の違約金を請求されるのが通常です。

この場合、「サブリース業者より、マスターリース契約はいつでも解約できると説明されていた。」と語るオーナーが多いです。このオーナーは悪質なサブリース業者に騙されたと言えるかもしれませんが、賃貸住宅の経営は事業であり、オーナーは消費者としての保護を受けられません。

悪質なサブリース業者に騙されたとしても立証責任はオーナー側にあり、立証できないと詐欺とは見做されず、泣き寝入りするしかないことが多くありました。

今後は、上述した虚偽の説明をする、あるいは虚偽の広告を掲出することは禁止になりました。違反した場合には罰則があり、第28条違反の場合は、30万円以下の罰金に処せられることが規定されています。

この法律の施行により、悪質なサブリース業者が排除され、適切な賃貸住宅の運営がなされることを期待します。

ガイドラインに記載されている例から抜粋した一部を以下に記載します。

◎広告に表示しないと法令違反になる例
※広告の際には文字の大きさのバランス、色、背景等からオーナー等が一体として認識できるよう表示する必要があります。

・サブリース業者がオーナーに支払う家賃、支払日、支払方法の見直しがある場合は、その見直し時期

・広告に記載された期間より短い期間毎に家賃の見直しがあり、見直しがされると収支シミュレーション通りの収入を得られない場合はその旨

・「〇年間の賃貸経営の収支シミュレーション」などを記載する際には、前提とする仮定(稼働率、家賃変動等)

・「家賃保証」「空室保証」などの表示をしているものの、定期的な家賃の見直しがある場合は「家賃保証」等の文言に隣接する箇所に、定期的な家賃の見直しがあること

・サブリース業者がオーナーに支払う賃料は、借地借家法第32条により減額されることがあること

・「○年間借り上げ保証」など、期間内に解約しない表示を行う場合でも、期間中にサブリース業者から解約をする可能性があること

・オーナーからの中途解約条項がある場合でも、借地借家法第28条に基づき、正当な事由があると認められる場合でないとオーナー側から解約できないこと

・利回りを表示する際は表面利回り、実質利回りのいずれであるかを記載しなければならない。表面利回りを表示する場合は諸経費を考慮する必要があること

・オーナーからマスターリース契約を解約する際に、違約金として月額家賃の数か月分等を支払う必要がある場合はその旨

・サブリース業者が勧めるマスターリース契約に短所がある場合は、打消し広告を行うこと
打消し広告を行う場合、小さな文字で表示されていると表示に気がつかないことがあるので、適切な大きさの文字とし、強調表示に隣接した箇所に表示する必要があります。

◎法令違反になる表示および行為
・確実に利益を得られるかのように誤解させて、投資意欲を不当に刺激するような表示、または「収入は下がりません」等の表示

・定期的な家賃の見直しや借地借家法に基づくサブリース業者からの減額請求が可能である旨を表示せず、「○年家賃保証!」「支払い家賃は契約期間内確実に保証!一切収入が下がりません!」といった表示をし、当該期間の家賃収入が保証されているように誤解させる行為

・家賃の定期的な見直しがあること等のリスク情報を「○年家賃保証」の文字に隣接しない箇所に表示する行為

・短い期間で家賃の改定があるにもかかわらず、「〇年間家賃収入が保証されます」などのオーナーによる経験談を掲載する行為

・実際の利回りよりも大きく上回る利回りの表示

・利回りを保証しないのに、「利回り○%」等の表示

・根拠を示さず、「ローン返済期間は実質負担0」とした表示

・根拠のない算出基準で算出した家賃をもとに「周辺相場よりも当社は高く借り上げます」との表示

・「一般的な賃貸経営は2年毎の更新や空室リスクがありますが、サブリースなら不動産会社が家賃保証するので安定した家賃収入を得られます。」等の、サブリース契約のメリットのみの表示

・サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の内容、頻度、実施期間等を表示する際に、実施しない内容を実施する旨の表示

・休日や深夜は受付業務のみを行うか、又は全く対応しないにもかかわらず、「弊社では入居者専用フリーダイヤルコールセンターを設け、入居者様に万が一のトラブルも24時間対応しスピーディーに解決します」等の表示

・実際にはオーナーから一定の費用を徴収して原状回復費用に当てるのに「原状回復費負担なし」等とする表示

・大規模修繕等の費用はオーナーが負担するにも関わらず、「修繕費負担なし」とする表示

・維持保全に係る修繕費の大半がオーナー負担にもかかわらず、「オーナーによる維持保全は費用負担を含め一切不要!」とする表示

・維持保全の費用が一定の上限額を超えるとオーナー負担になるのに「維持保全費用ゼロ」とする表示

・維持保全の費用に対するオーナーの負担割合を実際より低くした表示

・維持保全の費用について、実際には、他社でより低い利率の例があるにもかかわらず「月々の家賃総額のわずか○%という業界随一のお得なシステムです」等とする表示

・オーナーが支払う維持保全の費用が、実際よりも著しく低額であると誤解させる表示

・客観的な根拠がないにもかかわらず、「維持保全の費用は他社の半分程度で済みます」とする表示

・月額費用がかかるにもかかわらず、「当社で建築、サブリース契約を結ばれた場合、全ての住戸に家具家電を設置!入居者の負担が減るので空室リスクを減らせます!」等とする表示

・契約期間中におけるサブリース業者からの解約が可能なのにその旨を記載せず、「30年一括借り上げ」「契約期間中、借り上げ続けます」「建物がある限り借り続けます」等とする表示

・借地借家法第28条により、オーナーは正当事由がなければマスターリース契約の更新を拒絶できないにもかかわらず、「オーナーから自由に更新を拒絶できます」とする表示

・オーナーからマスターリース契約を解約するには正当事由が必要であることが借地借家法により定められているのに、「オーナーはいつでも自由に解約できます」とする表示

・動画広告の場合に、体験談を入れること
 体験談を語る方と同じ利益を享受できると誤解する恐れがあることから、ガイドラインでは禁止対象です。