新築1棟マンション(単身者用)を収益用として購入することの是非

 収益用不動産の購入を考え、不動産会社に相談すると新築の単身者用1棟マンション(建て売り)を勧められることがあります。概ね、以下のセールストークが行われることが多いようです。

セールストークの例

・新築なので設備の故障に悩まされることはほとんどありません。
・サブリース契約(建物の一括借り上げ)を締結すれば空室が発生しても家賃が毎月入金するので金融機関によるローン審査を通過しやすくなります。

・サブリース契約を締結すれば、管理や空室発生時における新たな入居者募集、家賃滞納者への対応を全てサブリース業者が行ってくれるので、賃貸住宅の運営を副業として行うことが可能です。
・新築なので家賃は高めに設定しても大丈夫です。

 新築の単身者用1棟マンションについては「購入してはいけない」とする不動産ブログ、YouTube動画、不動産投資に関する書籍が数多くあります。数が多いので、このブログではいちいち取り上げません。

 確かに上述したセールストークは全て真実であり、 新築の単身者用1棟マンションを購入する利点と言えます。しかし、購入する際にはかなり注意しないと高値づかみをさせられます。さらにサブリース契約を締結する際には契約条件を十二分に注意しないと賃貸住宅の運営が破綻する原因になります。

 以下、詳しく解説します。

想定賃料を大幅に盛っている物件が多い

 最近は建築材料の費用が極めて高額で推移しています。このため、地域の相場通りに家賃を設定すると利回りが極めて低くなるので購入希望者が現れません。このため、想定賃料を大きく盛り、利回りを調整(引き上げ)している物件が数多くあります。

 私の会社がある東京都目黒区における家賃相場は1坪あたり11,000~12,000円ですが、想定賃料を17,000円に設定して購入希望者を募る1棟ものの新築マンションに遭遇したことがあります。実際の表面利回りは3%前半なのに、想定賃料を大きく盛ることにより表面利回りを5%前後までにあげているわけです。

 このような物件ではいわゆるサクラを入居させ、相場よりかなり高額な賃料で満室稼働していることを装うことがよくあります。質の良くない業者は「相場より高い賃料に設定していますが、満室で稼働していますのでこの賃料で問題なく運用できます。」等のセールストークを展開します。

 うっかり購入すると、1~2ヶ月程度で入居者(全てサクラ)が次々に退去するので大変な目に遭います。次の入居者を募集する際には賃料を大幅に値下げし、地域の相場に合致させなければ入居希望者が現れません。

 すると賃料収入が大幅に低下し、金融機関へのローン返済ができない状況に陥ります。その結果、賃貸住宅の運営が破綻することがあります。ローン返済が滞るとせっかく購入した物件を差し押さえられ、任意売却または不動産競売による物件売却を迫られ、最終的には破産に追い込まれることがあります。

 物件が立地するエリアにおける賃料の相場から算出される想定賃料と、不動産会社が示すレントロールに記載されている想定賃料との間に大幅な乖離がないかを確認することは必須です。

サブリース契約の問題点

 さらにサブリース契約の締結は十分に注意する必要があります。サブリース契約を締結すると物件の管理および入居者の募集、退去時の立ち会いをサブリース業者が行ってくれるのでオーナーの手間は大幅に省けるのですが、サブリース事業者を利用しない場合と比較して得られる賃料収入が2割程度少なくなります。

 サブリース契約の実質は賃貸借契約です。建物の建築後、7~8年以上経過したことにより「築浅」とは言えない状況になった場合、サブリース事業者は賃貸借契約の更新時に借り上げ賃料の値下げを要求してきます。オーナー様において値下げを拒否すると、サブリース契約の解約を一方的に申し入れられることがあります。全ての管理業務から撤退することを意味しますので、大半のオーナー様は対応に苦慮します。

 また、サブリース契約では様々な特約が付けられているのが通常です。特に注意が必要な特約は設備の故障、リフォーム、修繕をサブリース事業者が指定する工事業者に発注することを義務づける特約です。サブリース事業者が指定する業者以外の業者に設備の点検・修理、リフォーム等を発注すると高額の違約金を請求される旨の内容が記載されていることがよくあります。

 このような場合、サブリース事業者が指定する工事業者が請求する工事費は相場の2倍以上になることがあるようです。差額はサブリース業者へのリベート(いわゆるキックバック)です。

 さらにサブリース契約において貸室のエアコン、給湯器、ユニットバス等を不具合がなくても前回の設置から5年以上経過した場合は賃借人の退去時にオーナーの費用負担で新品に必ず交換すること、および外壁塗装を7~8年毎に必ず行うことが特約で定められていることがあります。賃貸住宅において使用するエアコンや給湯器の寿命は8~10年、ユニットバスは10年~15年と言われており、故障の有無にかかわらず5年毎に交換する必要はありません。外壁塗装も風が強い地域、または雪が多い地域でなければ10~12年毎に行えば十分です。

 サブリース契約を締結している物件を売却する場合、サブリース契約を締結していない物件と比較すると評価額が2割程度低くなるのが通常です。収益用不動産の評価額は利回りで決まります。サブリース契約を締結している物件における賃料収入は、サブリース契約を締結していない物件の賃料収入より2割程度少ないからです。

 そしてサブリース契約は実質的に普通賃貸借契約であることから、借地借家法によりオーナー様から解約することは極めて困難です。それでも解約する場合は1千万円を超える多額の違約金を支払わなければならないことがよくあり、このこともオーナー様からの解約を困難にしています。

減価償却費が多大

 新築物件の場合、建物の評価額が高額です。このため、毎年発生する減価償却費は高額になります。この減価償却費があまりにも高額であると、収支が大きく悪化します。

結論

 「賃貸住宅を初めて運営する際にはサブリース契約を締結して運用することをお勧めです。その方がローンを承認されやすくなります。」と言われることがよくあります。しかし、売却時の価格が低くなることに注意する必要があります。

 物件価格は利回りで決定されるところ、サブリース契約の締結により賃料収入が約2割減少するので資産価値は約2割減少します。つまり、売却の際はサブリース契約が付帯しない同じグレードの他の物件よりも約2割安くしないと売却できません。このあたりを説明しない悪徳業者があるようなので要注意です。

 新築の単身者用1棟マンション(建て売り)は、賃貸不動産の運営に対して十分な経験を有する方でないと酷い目(前述したサクラの存在など)に遭うことがよくあります。特にサブリース契約を締結する場合は、初心者の購入はお勧めしません。

 あくまでも筆者の個人的見解ですが、収益用不動産の運営を初めて行う方は、サブリース契約が付帯する新築の単身者用1棟マンション(建て売り)の購入を避けるべきです。