賃貸物件が老朽化した場合、借主を退去させることは可能か

賃貸アパートまたは賃貸マンションを賃貸借契約に基づき貸し出している場合において、貸主が借主を退去させるためにはいわゆる「正当事由」が必要です。

例えば、賃借人が賃料を3か月以上滞納した場合は、「賃貸人および賃借人相互の間における信頼関係が破壊された」ことになり、これがいわゆる「正当事由」になることから、退去を請求できる根拠になります。

賃貸用建物が老朽化すると維持費や修繕費が増えてきます。古い建物の場合は階段が急である(建築基準法による制限が緩かった)ことが多く、バス・トイレが別ではなく、洗濯機置き場が室外にある等の理由から空室が生じた場合の入居者募集期間が長期化しやすくなります。このため、建て替えを検討したくなるオーナーは多いです。

あくまでも東京都区内の話になりますが、木造の賃貸アパートでは築30年、RC造の賃貸マンションでは築45年を経過した頃から建て替えを検討したくなるオーナーが多いです。建て替えをしたいとして、入居者に退去してもらうための交渉に関する相談を受けることがあります。

「老朽化は立ち退きを請求できる正当事由であり、契約更新の際に更新を拒絶すれば立退料も安く済む」とお考えのオーナーがとても多いので驚きです。

建物が老朽化しているだけでは賃借人を退去させるための正当事由にはなりません
結論から申し上げると、建物が老朽化しているだけでは賃借人を退去させることは認められていません。
そもそも「老朽化」の定義が曖昧であり、何がどのようになれば「老朽化している」と判断できるのかもわかりません。

それに小規模な修繕を続け、故障した設備を入れ替えることにより、賃借人が安全に居住できる環境が守られます。賃料を建物の状況に見合った金額に設定している場合は、退去をお願いする理由にはなりません。

賃貸借契約の更新時期が到来する6か月以上前に更新しない旨を予告していた場合でも、建物の老朽化を理由として退去させることは困難です。立退料を支払うとしても、これは「正当事由」がある場合にそれを補足する次元の話に過ぎないと考えられます。

賃貸借契約を貸主側から解約する場合に「正当事由」と見做されるための要件
具体的には「耐震検査により、大地震が発生した際に建物が倒壊する恐れがあると判断された。現状では居住者の身体の安全を確保できず、建物の構造上の理由から耐震工事を行えない」とか「土地区画整理事業のために建物の取り壊しを求められている」等の場合に「正当事由あり」と見做されます。

「正当事由あり」と言える場合は、立退料を支払うことを条件として賃貸借契約を貸主側から解約できます。

賃貸借契約の解約について正当事由が認められる場合でも、立退料の支払いが必要
賃貸借契約を解約された借主は、新たな住居を探す必要があります。引越費用はもちろん、新しい物件における礼金、仲介手数料、保証会社の保証料(初回分)の実費が必要です。その他に、迷惑料としての補償金を支払わなければ賃借人は納得しないでしょう。

必要になる立退料の金額は、借りている部屋の居住人数や部屋の広さ、家財の量により大きく異なります。借主が店舗や事務所として利用している場合は巨額になりがちです。

1Kや2DKの居宅でも、そこを拠点として営業活動を行っている(オーナーの承諾を得た上での営業活動であることが必要)場合には、営業に関する補償をする必要があります。この場合における立退料は100万円を超えることがよくあります。

金額の交渉は弁護士または司法書士(金額が140万円以下の場合)が行うことが一般的です。

オーナー側から賃貸借契約の解約を求める裁判を提起することは可能だが、オーナーは極めて不利
建物が老朽化している、大地震の際に危険等の事情がある場合でも、オーナー側から賃貸借契約の解約を求めていることが重視されることから、裁判の場で争うとオーナー側に不利な判決が下されることが多いです。つまり、賃貸借契約の解約は不当であり、解約は認められないという判決になることが多いです。

このため、なるべく当事者間における話し合いで解決するべきです。裁判沙汰になった場合でも「和解」で解決することが望ましいです。

収益物件の取り壊しを予定している場合は、定期賃貸借契約がお勧め
近いうちに収益物件の取り壊しを予定している場合は普通借家契約ではなく、定期借家契約を締結することを強くお勧めします。

ただし、賃借人を最初に入居させる際に普通借家契約による契約をしてしまうと、契約更新の際に定期借家契約に変更することは認められていません。

定期借家契約については、こちらのページに記載していますのでご覧下さい。