不動産売買、手形や小切手による支払の是非

 不動産の代金支払に際し、手形や小切手の利用を希望される買主様がたまにいらっしゃいます。手形や小切手による支払は、商取引における有力な支払手段です。このため、不動産の購入にも利用したいと考えるのでしょう。

不動産取引における支払手段として手形や小切手を利用することの是非

 結論から申し上げると、買主様および売主様の双方が手形や小切手の利用を了承していれば利用可能です。しかし、筆者が仲介を行う不動産売買では利用を認めないことを勧めています。その理由は、不渡りになった場合や偽造されたものであった場合の対応が極めて困難であるからです。

 不動産売買契約の締結時に買主が売主に手付金を支払い、決済時に買主が残金を手形や小切手により支払ったとします。すると、司法書士は法務局に所有権移転登記申請手続を行い、所有権移転登記が成立します。

 司法書士は、手形や小切手が不渡りである、または偽造であることを事前に知らなければ免責されます。不動産仲介会社も同様です。しかし、所有権移転登記は手形や小切手が不渡り、または偽造であった場合でも成立します。

 売主は、有効な代金支払が行われていないとして所有権移転登記が無効である旨を主張すると思われます。しかし、手形や小切手が不渡りまたは偽造である場合、買主に支払能力がないことが多く、裁判の提起は無意味かもしれません。不動産の所有権を取り戻す手段は限られ、場合により不動産を無償に近い価格で譲渡することになりかねません。

 このため、推奨されるのは不動産の代金支払に際し、手形や小切手の利用を認めないことです。

 ところで、金融機関が発行する預金小切手であれば安全であるとする見解があります。しかし、筆者は預金小切手の利用は少額の決済である場合に限定するべきと考えます。不動産取引のような多額の決済において、偽造されたものが利用されたら取り返しがつかないからです。

 現在、日本国内において流通する紙幣には偽造が困難な処理が施されています。しかし、手形や小切手の用紙は偽造される恐れがあります。預金小切手の用紙も同様です。国内紙幣よりも偽造リスクは高いです。

 それに、多額の場合は現金化するのに日数を要することがほとんどです。

 手形や小切手による支払は、売主において享受できるメリットがほとんどありません。このため、不動産売却時には手形や小切手による代金支払を認めないことを推奨します。