収益用不動産の相続は、借主を追い出す理由になりません

 筆者の会社では不動産に関する様々な相談を受けています。収益用不動産等の相続に起因する相談がたまにあります。 

相談事例

 賃貸マンションの一室を借りて居住しています。家賃の滞納は一度もありません。最近、賃貸マンションのオーナーが他界し、オーナーのご子息が新しいオーナーになりました。

 ところがこの新しいオーナーから、「このマンションは相続により自分が所有者になりました。このため、マンションを取り壊してこの場所に自宅を建てることにしました。つきましては2か月以内に退去してください。」と記載された通知書が届きました。

 新しいオーナーに尋ねたところ、「あなたに部屋を貸したのは自分の親であり、私ではない。親が他界したので賃貸借契約は終了した。だから退去して欲しい。立退料は一切支払わない。」と言われました。

 私は退去しなければならず、立退料をもらうこともできないのでしょうか。

※プライバシーに配慮し、一部アレンジしています。

 収益用不動産の運営を行っている方の多くは「このようなデタラメを主張するオーナーが本当にいるの?」と思われると思います。

 しかし、この種の相談は時々あります。「貸主が他界した場合は、賃貸借契約はその時点で終了する。」と思い込まれている方はとても多いようです。

 賃貸住宅の運営経験がない方が相続等の理由により賃貸住宅のオーナーになることがあります。そして管理会社に物件の管理を委託していない場合に、このような荒唐無稽な主張が展開されることがあります。

 また、コロナ禍の長期化に伴い異業種から賃貸住宅運営事業に参入した方が、借地借家法等を無視した主張をすることがあります。具体的には「オーナーが変わったので家賃を大幅に値上げできる。」とか「賃貸借契約の更新を拒否すれば入居者を追い出せる。」等を堂々と主張することがあります。

 これらの主張は、相続、民法、借地借家法、賃貸借契約に関する知識が完全に欠落しているために展開されます。

 困ったことに、賃借人や不動産会社の者がこのあたりを教えようとしても、なかなか信じない方が多いです。この場合は「相続で賃貸借契約が終了することはない。賃貸借契約を解約する場合は立退料が必要。」と弁護士に説明してもらうことになります。

 数は少ないのですが、弁護士がきちんと説明しても納得せず、裁判に持ち込む方がたまにいらっしゃいます。しかし、「親が亡くなった時点で賃貸借契約は終了。立退料は支払わない。」等と主張しても、裁判を提起すればほぼ確実に敗訴します。裁判所書記官の判断により、訴状が受理されないこともあります。