不動産売買業、売買仲介業はAIによる完全自動化が可能か(その3、最終)

※昨日投稿した内容の続きです。

 前回および前々回の投稿では、不動産売買における物件紹介および重要事項説明をAIにより完全自動化することが困難である旨を述べました。

 本日は、以下の枠中において赤色で示した部分がAIになじむかを検証します。

・物件の紹介を受ける場合はポータルサイトに掲載されている物件を選択し、内見希望のボタンをクリックすると内見方法が表示される。オンライン内見を実施したい場合は、対応するボタンをクリックすることによりオンライン内見が実施される。

・重要事項説明はオンラインで行う。または重要事項説明書を売主(または売主側の不動産会社)が購入希望者にオンラインで送付するだけで構わないように法改正する。

・購入を申し込む場合は通販と同じようにマウスでクリックすることにより契約が成立する。代金の支払はオンラインバンクで済ませる。

・住宅ローンを利用する際もWEBサイト上で申込みが完了する。申込時に希望借入金額、希望返済期間、年収、年齢、勤務先、職業をインプットすることにより金銭消費貸借契約締結の可否はAIが自動的に判断する。AIは入力された条件により最適な利率を算出する。契約締結可能と判断された場合、金銭消費貸借契約はマウスクリック一つで成立し、借り入れた金銭は決済時に自動で売主に支払われる。

・鍵の受け渡しは、売主における入金の確認後に宅配便で行う。

契約締結の部分だけであればAIによる自動化が可能と思われる

 買主に知っておいていただきたい内容は重要事項説明において説明しています。重要事項説明において質疑応答が行われ、その結果として契約書の文言に一部変更が生じることがあります。しかし、この段階になると買主には売買契約書の内容が明らかにされ、宅地建物取引士による説明を受けているはずです。

 売買契約書の文言が全て確定していればAIによる自動化は可能と考えます。売主及び買主に電子印鑑を用意してもらう必要がありますが、内容を最終的に確定した売買契約書をWEBサイト経由でダウンロードしてもらい、電子印鑑による認証をすることにより売買契約は成立します。

 通販サイトで商品を購入する際と同じような気軽さで契約することは難しいと思いますが、AIによる自動化自体はそれほど困難ではないと考えます。

 ちなみに契約書に貼付する収入印紙は、電子印鑑を用いたオンライン契約であれば一切不要であるとされています。このため、電子印鑑を用いた契約書の作成は今後はかなり増えると思います。

住宅ローン審査のAI化は、やや問題があるかもしれない

 不動産の購入希望者が希望借入金額、希望返済期間、年収、年齢、勤務先、職業を入力したのみで与信を行い、金銭消費貸借契約締結の可否を判断できるかという問題があります。

 個人信用情報機関に家賃やクレジットカード返済の滞納歴が登録されている場合はそこで自動的に金銭消費貸借契約の締結を認めないことにするのは当然として、希望借入金額を下げてもらえれば契約の締結が可能になる場合があります。このような場合、どのようなプランを買主に提案するか、その条件で目的不動産を購入できるか(買主の自己資金を増やせるか)という問題があります。

 また、買主において住宅ローンの利用を申請する先の金融機関を過去に利用していた実績がある場合は利率をやや下げる等の調整を行うことがあります。AIがこのような処理に対応可能かという問題があります。

決済時における鍵の受け渡し

 売主において売買代金の入金を確認したところで売主が買主に鍵を宅配便にて発送するだけなので、AI化するメリットはありません。それに紛失の危険性を考え、対面による受け渡しを希望する売主および買主はまだ多いと思います。

 鍵の受け渡しの他に、所有権移転登記を行う必要があります。住宅ローンを利用する場合は抵当権または根抵当権を設定します。このあたりは司法書士の専管事項であり、AI化による自動化の議論を行う枠外であると考えます。