不動産競売、特別売却物件はお買い得か

 地方裁判所が開催する不動産競売において、入札者が誰もいないまま入札の締め切りを迎えることがあります。

 入札書類に不備がある、入札書に記載された入札金額が売却基準価額(不動産鑑定士が定めた、入札の基準となる価額)の8割未満である等の場合、当該入札は無効になります。

 競売の実施日に、有効な入札が1件もない場合があります。この場合は競売手続が一旦中止になります。

 この場合、通常は不動産鑑定士の意見を得た上で売却基準価額を下げ、後日に2回目の競売を実施します。それでも入札者がいない場合は、再び売却基準価額を下げ、3回目の競売を実施します。なお、3回目の競売は地方裁判所により実施しないところがあります。

 2回目の不動産競売における売却基準価額は最初の競売における売却基準価額の約8割です。3回目の不動産競売における売却基準価額は最初の約3分の2になることが多いです。

 それでも入札が全くなく、競売手続が終了することがあります。この場合は特別売却手続に移行することがよくあります。 

 このような特別売却手続で売られている物件の価額は、相場よりもかなり安いことが多いです。不動産競売による物件購入を積極的に行っている不動産会社では、特別売却で売られてる物件を購入しているところがあります。

特別売却手続で売られている物件はお買い得か

●権利関係が複雑な物件

 筆者の会社では、過去に特別売却物件を購入し、リフォーム後に再販したことがあります。不動産が競売にかけられる場合、任意売却が併行して行われることが多いです。この任意売却は市場流通価格の約8割に設定されることが多いですが、筆者の会社ではその価額の4割程度で購入できました。

 特別売却物件を購入する際に注意が必要なのは物件の状態だけではありません。権利関係についてもよく調査する必要があります。

 筆者の会社が購入した物件は5番迄の抵当権、差押登記および参加差押登記、抵当権の設定予約登記等があり、とても複雑な状態でした。さらに債権の移動や相続が繰り返され、抵当権の一部が放棄されていました。

 一見しただけでは権利関係を理解できず、競売で購入できても所有権を妨げる担保権が残らないか、一抹の不安がある状況でした。

 これでは不動産業に携わらない一般の方はもちろん、再販を目的とした不動産業者も入札を避けて当然です。3回目の競売を実施しても入札者が誰も現れず、特別売却物件になった理由はこの点にありました。

 全ての抵当権や抵当権設定予約登記、差押登記等を抹消できるかについて時間をかけて検討しました。「全て抹消できる」と確信したので購入を決断しました。その後はリフォームを行い、無事に再販しました。

 物件の問題が権利関係のみの場合は、競売実施後に所有権を妨げる担保権等が残らなければ購入して構わないと考えます。ただし、その見極めはかなり難しいです。

●物件自体に問題がある物件

 物件自体に何らかの大きな問題があるために入札者が誰もいない状況が繰り返され、特別売却物件として売られている物件があります。主なものを例示します。

・交通が不便な山奥にある、朽廃した戸建住宅
・過去に住人の不審死が複数回発生している、1棟ものの社員寮施設
・崖の上にあり、道路に接道していない土地
・山林の一区画で、そこに行く道路や通路が全くない土地
・土砂災害特別警戒区域に指定され、建物の建築が認められない土地
・反社会的勢力の構成員が居住し、執行官による内部調査を拒まれている住宅
・郊外において廃業したガソリンスタンドの跡地(地下にガソリンタンクが存在)
・前面道路が私道であり、私道の所有者が競売購入者の通行を一切認めない旨を予告している物件
 (私道所有者に通行を拒否する権限があるかは別の問題)

 これらの不動産をうっかり購入すると多額の財産を失うことになります。物件自体に問題があり、容易に解決できないと思われる場合は、入札を控えることが賢明であることが多いです。