賃貸物件で給湯器が故障し、直ちに修理できない場合(オーナー様向け)

 ご承知の通り、中国で行われているゼロコロナ対策により多くの工場が閉鎖されています。東南アジアにおいても新型コロナウイルス感染症が依然として流行しており、工場の稼働率が著しく低下しています。これから冬本番になるので、さらなる流行の拡大が懸念されます。

 このため、特に水回り部材および給湯器の不足が深刻化しています。給湯器の多くは湯温、水量をコントロールするために半導体を使用していることから生産量が極めて少なく、品薄の状況が続いています。

 特に給湯器のメーカーおよび型番を指定した場合、納期が半年~1年以上に及ぶことがあるのが現状です。建物を新築する場合、建築を始める時点で給湯器のオーダーをしておかないといつまで経っても完成検査を行えないという深刻な状況に陥っています。

貸室において給湯器が故障すると大問題

 給湯器の不足はオーナー様賃貸物件の管理会社において頭が痛くなる問題です。入居者から「給湯器が故障したので修理または交換して欲しい」と依頼されても、対応できないことが多いからです。

 消耗部品の故障は部品の在庫があれば修理で対応出来ることが多いです。しかし、一般的な耐用年数といわれる10年を超えて使用していた給湯器が故障した場合、交換部品がメーカーに保管されていないことから新品に入れ替えなけれならないことがあります。

 給湯器の故障をいつまでも解決できないことは、賃貸借契約において定められている貸主の義務を完全に果たすことが出来ないという深刻な問題につながります。

オーナー様および管理会社に求められる対応

 給湯器を提供できなければ賃貸借契約を完全に履行しているとはいえません。シャワーすら利用できない期間が長期化すると家賃の減額要求では済まず、借主から「賃貸借契約を解約するから引越費用、移転先の入居費用、および迷惑料を支払って欲しい」と言われるなどの大きな問題に発展することがあります。

 通常、代替機種を使用できる場合は代替機種の設置による解決を図ります。しかし、1棟マンションの場合は設置スペースの関係から特定のメーカーの特定機種しか設置できないことがあります。

 どうしても給湯器を直ちに設置できない場合は、給湯器を利用できない期間における家賃の減額を提案することになります。実務では1割程度の減額で了承してもらえないかを交渉することが多いです。

 しかし、新しい給湯器を長期間手配できず、代替機種の設置もできない場合は賃貸借契約の解約に応じなければならないことがあります。引越のための運送費、新しい入居先に入居するための仲介手数料および礼金、迷惑料を借主に支払わなければならないかという問題がありますが、金額は交渉の余地があります。

 借主に落ち度はありません。しかし、貸主が賃貸借契約を履行できないことに関する落ち度も低いと言えます。給湯器を新品に交換したくても品薄で手に入らないという状況は、賃貸借契約を締結した時点では想定外であったからです。通常の貸主都合による解約ではないので、迷惑料は減額されると思われます。

代替機種を設置したものの不具合がある場合

 前述したとおり、代替機種を使用できる場合は代替機種の設置により解決を図ります。ところが代替機種の場合、お湯の温度や給湯のスピード、音などに関するクレームが発生し、家賃の減額を求められることがあります。

 この場合は判断が難しいのですが、賃貸借契約における貸主の義務は一応果たされていると言えます。しかも給湯器を手配できない責任の全てが貸主にあるとは言えません。クレームの内容によりますが、代替機種の利用期間がそれ程長期にならないのであれば、借主の要求を受け入れる必要はないと考えられます。

 しかし、クレームの内容により、新しい機種を設置できるまでの期間について家賃の減額で対応することが貸主および借主の間における良好な関係を維持するために適切であることがあります。家賃の減額を提案する場合、家賃の数パーセント未満を減額することが多いです。