収益用不動産を購入する際における注意点(その4、サブリース)

収益用不動産の購入を検討している際に、不動産会社からサブリース方式の物件を紹介されることがあります。

サブリースとは、「転貸」を内容とした賃貸借契約の一つです。まず、サブリース事業者はオーナーから建物全部を借り切るか、一室を借ります。賃貸中、空室のいずれであるかに関わらず、サブリース事業者はオーナーに賃料を支払うことを約し、転貸が可能な特約を盛り込んだ賃貸借契約を締結します。これをマスターリース契約と言います。
マスターリース契約における賃料は、賃料相場の8割程度に設定することが多いです。設定された賃料を「保証賃料」といいます。

建物全部を借り切っている場合は、サブリース事業者が物件の管理を行うことが通常です。

次に、サブリース事業者は入居希望者との間に一戸単位の賃貸借契約を締結して居住させます。サブリース事業者は部屋を転貸し、賃貸人として部屋を貸して賃料を徴収します。この賃貸借契約をサブリース契約と言います。

以下、サブリース方式のメリットとデメリットとを述べます。

サブリース方式のメリット

賃借人が退去して空室になっても、その期間の賃料(保証賃料)はサブリース事業者が支払います。
賃料相場の約8割程度を保証賃料として、入居の有無にかかわらずサブリース事業者がオーナーに支払います。
このため、空室の場合でもオーナーは一定の賃料収入を受け取れます。空室期間が長引いた場合でも、賃料を得られない心配がありません。

通常、建物全部を借り切る場合には、物件の管理を事業者が行います
入居者からの問い合わせ等に対する対応は、サブリース事業者が行います。オーナーが対応する必要はありません。ただし、管理費はオーナー負担とすることが多いです。通常は入居者から徴収した賃料の2~数%程度を差し引き、残りの金額をオーナーの預金口座に振り込みます。

退去の際における立ち会いや入居者の募集はサブリース事業者が行います
敷金の精算や入居者の募集はサブリース事業者が行います。
通常、入居者を募集する際に必要となる仲介手数料や広告料はサブリース事業者が支払います。

賃料を滞納している賃借人への対応はサブリース事業者が行います
連帯保証人または賃貸保証会社に滞納家賃を弁済させる手続きはサブリース事業者が行います。
万が一、法的手段による退去手続きが必要な場合は、サブリース事業者の顧問弁護士が対応します。

確定申告等の税務書類の作成が容易です
サブリース事業者に支払った金額を申告するだけで足りることが多く、細かい内容を申告する必要がありません。

サブリース方式のデメリット

最大化した賃料を受け取れません
賃料収入が相場の8割程度に設定されているため、最大化した賃料を受け取ることが出来ません。
また、管理料として2~数%程度を差し引かれることが通常です。

好ましくない属性の方が入居する場合があります
入居審査はサブリース事業者が行います。オーナーは入居審査に関与できないため、好ましくない属性の方が入居する場合があります。

入居者から、礼金や更新料を受け取れません
これらはサブリース事業者の収入になります。

マスターリース契約をオーナー側から解約することは認められません
マスターリース契約は賃貸借契約です。借地借家法の定めにより、正当事由がなければオーナー側から解約することは認められません。更新を断ることも出来ません。
オーナー側から解約を申し出る場合、多額の違約金を請求されることがよくあります。

賃料の見直しが2~数年毎に頻繁に行われます
建物が古くなった、周囲の環境が変化した等を理由として、マスターリース契約における賃料(保証賃料)の値下げを2~数年毎に提案されることが多いです。
金融機関から融資を受けて収益用物件を購入した場合、この値下げ提案を受け入れることにより金融機関への返済が出来なくなり、破産に追い込まれる例が後を絶ちません。
賃料の値下げを提案された場合のキャッシュフローについても、物件を購入する前に綿密に計算しておく必要があります。

物件を売却する際の査定価格が低くなります
賃料収入が相場の2割以上低いことから、査定価格も連動して2割以上低くなります。

※要注意
マスターリース契約の中に、リフォームやリノベーションに関する特約が規定されていることがあります。
この場合は、内容をよく確認する必要があります。

※問題となる特約の内容
・リフォームやリノベーションを数年毎に必ず行う。費用はオーナー負担とする
・工事の発注先は、サブリース事業者の関連会社に限定する(工事費は相場の3~5割増)

このような特約があるマスターリース契約が適用される物件を購入したオーナーは、必ず大損をしますので、購入を避けるのが無難です。

まとめ

入居者募集、物件管理、賃料の督促、その他に時間を割けない方にとっては、サブリース方式は非常に便利なものであると言えます。

稼働中、空室のいずれでも一定の賃料を受け取れますし、時間を割かれることがありません。しかし、保証賃料を減額された場合のキャッシュフローを必ず考えておく必要がありますし、誰が入居するかわからないという問題があります。

私が最も問題だと思うのは、サブリース方式の物件は、売却する際の査定価格がかなり安くなることです。サブリース方式が採用されていない物件と比較すると、2割以上安く査定されることがほとんどです。
しかも、マスターサブリース契約をオーナー側から解約することは認められません。それでも解約しようとすると、莫大な違約金を請求されることが多いです。

将来において、いわゆるキャピタルゲインを得ることを目的とした売却を行う可能性がある場合は、サブリース方式の収益用物件は購入対象から外すことをお勧めします。サブリース方式ではない物件を購入した場合には、わざわざサブリース方式を取り入れる必要はありません。

サブリース方式を利用してもよいのは、自身が所有する収益用物件を売却することがない場合で、不動産賃貸業を副業であると位置づけている方であると思います。