「追い出し屋」は、利用するべきではありません

 勤務先を解雇された方が、入居している賃貸マンション・アパートの家賃を仕方なく滞納してしまう事案が増えています。

 滞納が続く場合、オーナーは退去を要求しますが、無職の方の入居はどこの賃貸物件も認めないため、引越先を見つけることは困難です。このため、賃借人の中にはオーナーに対して高圧的な態度で挑み、物件に居座る方がいます。不動産会社または管理会社の担当者が訪問しても居留守を使い、オーナーと遭遇した際には大声で暴言を浴びせるなど、威圧的な行為に出る方がいます。

 滞納が継続すると、オーナーは賃貸借契約の解約を通告して裁判を提起します。判決で賃貸借契約の解約が認められた場合、裁判所は強制執行を行い、退去させることになります。ただし、かなりの日数(半年~1年)を要しますし、高額な裁判費用を要します。法律上は賃借人に請求可能ですが、賃借人は無一文同然なので、裁判費用はオーナーが負担しなければなりなせん。

 入居者が家賃を長期間滞納している場合、手荒な方法で追い出すことを考えるオーナーから相談を受けることがあります。いわゆる「追い出し屋」を利用して追い出せないかという内容の相談です。

 「追い出し屋」は実在します。しかし、私の会社では、過去に「追い出し屋」を利用したことはありません。「追い出し屋」を利用したオーナーがどうなるかを知っているからです。

「追い出し屋」による追い出しの方法
 以下は、追い出し屋を利用したことがあるオーナー(以下、A氏)から聞いた内容です。

 「追い出し屋」は入居者が不在の時間を狙い、玄関扉の錠前を解錠し、室内の家財を全て運び出します。家財は建物の前の道路、または周辺の空き地に移動して放置するか、廃棄します。家財を運び出した後は錠前を交換し、賃借人が室内に入れないようにします。

 入居者がほとんど外出せず、在宅していることが多い場合は玄関を開けさせ、複数人で取り囲み、入居者が抵抗できないようにした上で何も言わずに室内の家財を全て室外に運び出します。その後は錠前を交換し、賃借人が室内に入れないようにします。家財は建物前の道路や空き地に並べるか、廃棄します。

 入居者は室内に入れなくなり、外に放り出されることになります。

「追い出し屋」を利用した場合
 賃借人の多くは無一文に近い状態なので、ホームレスになります。以前はそのまま泣き寝入りする方が多かったのですが、このような追い出し行為は自力救済行為にあたります。違法なので損害賠償を請求されたり刑事事件として立件されることがあります。

 追い出し行為が住居侵入、窃盗、暴行、傷害、強盗、監禁等の犯罪の構成要件を満たす態様で行われた場合は警察沙汰になることがあります。特に入居者が負傷した場合は、追い出し屋を利用したオーナーも暴行や傷害の教唆があったことを疑われ、場合により刑事事件として立件されることがあります。

 最近は、このような経済的に困窮した方を支援するNPO団体があります。団体の顧問弁護士を通じてオーナーが損害賠償を請求されることがあります。

「追い出し屋」は、反社会的勢力と繋がっていることがある
 「追い出し屋」は反社会的勢力がシノギとして行っていることがあります。前述したA氏は、突然行方不明になりました。

 A氏の友人から聞いた話によると、「追い出し屋」を利用したことがきっかけで高額な「みかじめ料」、および「上納金」を請求されたとのことです。

 A氏が関わった「追い出し屋」は反社会的勢力の構成員でした。請求は1回だけで終わることはなく、請求される金額は次第にエスカレートしました。最後には自身が所有する賃貸アパートおよび自宅を売却して支払うように求められ、売却したとのことです。

 どのような恐喝を受けたのかはわかりませんが、みかじめ料などを支払う行為は民法が定める不法原因給付にあたることから、返還を請求することはできません。

それに、高額なみかじめ料および上納金の請求を受けたことは「追い出し屋の利用」という違法行為の結果なので、弁護士や警察に対応を求めても冷淡な扱いを受けます。法的な解決を求めることは極めて困難です。

 その後も反社会的勢力による脅しが酷いので、A氏は身を隠すことにしたようです。

 現在、A氏はどこかの片田舎でひっそりと暮らしていると思います。「追い出し屋」を利用したことにより、ほぼ全ての財産を失ったものと思われます。

まとめ
 「追い出し屋」は絶対に利用するべきではありません。利用すると、A氏のようにほぼ全ての財産を失うことがあります。

 不動産会社、または管理会社から「追い出し屋」の利用を勧められた場合は、その不動産会社や管理会社との縁を切り、直ちに出入り禁止にすることを強くお勧めします。その不動産会社または管理会社が反社会的勢力と繋がっていることが疑われるからです。

 長期間の家賃滞納が発生すると、オーナーは大きな損失を被ります。時間がかかりますが、「追い出し屋」を利用せず、裁判により解決する方が損失を少なく出来ます。