借地権の売買は、不動産売買の専門会社に任せるべき

今日は、呆れるほどに無知な不動産会社の話を書きます。東京都内で実際に発生した事案ですが、守秘義務があるので現場の所在地、関係者の氏名、連絡先等に関する問い合わせには一切応じません。

地主から、以下の相談を受けました。
「借地として貸している土地に戸建住宅(木造二階建て)が建っている。建物の所有者(土地の賃借人、A氏)が自宅として居住していたが、勤め先から転勤命令を受けた。借地を地主にお返しするので、借地権を買い取ってもらいたいと言ってきた。ところがまともな話ができない。ある不動産会社を味方に付け、この不動産会社があれこれ言ってくるのだが、この不動産会社には借地に関する知識がなく、話が全く噛み合わない。」という内容です。

問題の借地がある場所は、相続税路線価図において借地権割合7割と定められている場所にあります。地主はA氏より「土地の市場流通価格(更地、所有権)の7割で借地権を買い取って欲しい」と言われたとのことです。地主は「借地権を手放す理由は借地権者(土地の賃借人)の都合によるものであるから、買い取り価格は市場流通価格の5割程度が妥当である。5割で良ければ買い取る。」と伝えたとのことです。

借地権の売買は慣習に則り行われます。慣習に従うと地主の主張が正しく、価格面で交渉の余地があるとすれば、建物の取り壊し費用の一部を地主に負担して貰えないかという点だけでした。

ところが、土地の賃借人A氏は「土地の市場流通価格(更地、所有権)の7割で売りたい。5割では安すぎる。」ということで、不動産会社Bに借地権の売却を依頼しました。このB社は賃貸アパート・マンションの賃貸仲介および管理が専門です。後でわかったことですが、B社は不動産売買を行ったことがほとんどありません。ましてや借地権売買に関する知識は全くありません。しかし、A氏の依頼を受けたことからB社は地主との交渉を開始しました。

B社は「相続税路線価図における借地権割合は7割なので、土地(更地、所有権)の市場流通価格の7割で買い取って欲しい。」と地主に迫ったとのことです。しかし、地主は「5割でしか買い取らない」と伝えました。すると、B社は地主に断ること無く、借地権売却の情報をレインズやポータルサイトに掲載し始めました。価格は市場流通価格の7割です。

借地権の売却に際し、地主を怒らせてどうするの
借地権を売却する場合には地主の許可が必要です。地主の許可無く借地権の販売活動が開始されたことから、地主は烈火のごとく怒りました。しかし、あえて放置する対応をしました。市場価格の7割で借地権を購入する方は誰もいないと考えたからです。

仮に地主が借地権の売却を認めたとします。譲渡承諾料(名義変更料)が必要であり、相場は借地権価格の1割です。古家を取り壊し、新たな建物を建設するためには建物の再建築に対する承諾料を支払う必要があります。木造などの非堅固建物の場合で更地価格の3~5%、鉄筋コンクリート造等の堅固建物の場合は更地価格の10%程度が必要です。さらに、建築確認申請を行う際は事前に土地を測量する必要があります。その他に取り壊しの費用が発生します。

全ての金額を合計すると、土地の市場流通価格(所有権、更地)にかなり近くなります。更地の場合における市場流通価格で、あえて「借地」として購入する奇特な方は誰もいません。

地主の目論見通り、購入希望者は誰も現れなかったが...
A氏と地主との間に軋轢が生じたものの、地代はきちんと支払われていたとのことです。このため借地権は解約されることなく、日時が経過しました。地主が考えたとおり、「借地権割合7割」に見合う金額で借地権の購入を希望する方は誰も現れず、1年半が経過しました。

A氏はB社に相談しました。ところが、B社の担当者はとんでもないアドバイスをしました。「建物を取り壊せば借地権を買い取る方が現れると思う。建物を取り壊すのが良い。」というものです。あり得ない話なのですが、A氏は地主に断ることなくB社から紹介された解体業者に建物の解体を依頼し、取り壊しを始めました。

驚いたのは地主です。地主が「建物を取り壊した時点で土地の賃貸借契約は終了し、借地権は消滅します。それでよろしいですか。」とA氏に伝えたことから、2階の一部を解体したところで解体作業がストップしました。

借地上の建物を地主の許可無く解体すると、地主から土地の賃貸借契約の解約を申し入れられることがあります。このような場合に、借地権が実際に消滅するかについては諸説があります。地主が土地の賃貸借契約の解約を希望した場合、この主張が認められるかについては裁判で争うのが一般的です。

激怒した地主は土地の賃貸借契約の解約を希望し、借地権の買い取りを拒否することにしました。このため、裁判手続き(調停)が開始されたとのことです。

地主の許可無く借地権の売却活動を行い、さらに建物の解体を始めたA氏にはかなりの落ち度があります。不動産会社Bが関わっているとはいえ、調停で解決できず、判決を求めると地主の主張が認められる可能性が高いです。

地主の許可無く借地権の売却活動を行う行為、および借地上の建物を地主の許可無く解体する行為は地主より土地の賃貸借契約の解約を申し入れられる原因になります。B社においては専門外であり知らなかったのでしょう。これらの行為は重大なトラブルを招くことがあることを全く知らない不動産会社が存在することを知り、唖然としました。

借地権の売買は、不動産売買の専門業者に任せるべき
A氏がB社に相談した理由がわかりませんが、恐らく誰かからの紹介であったものと思われます。

不動産会社には、それぞれ専門分野があります。大手、または準大手の不動産会社で従業員数が数十名を超える不動産会社であっても、賃貸アパート・マンションに関する不動産仲介を生業としている会社の中には不動産売買および借地権売買に関する知識や経験が乏しいところがあります。

借地権の売買は慣習に則って行われますが、不動産売買を生業としている会社でなければ取り扱いが困難です。「借地権は土地の賃貸に関する権利であるから、賃貸アパートや賃貸マンションの賃貸仲介を行う不動産会社や賃貸専門の不動産会社に任せれば良い」とお考えになられる方が多いですが、これらの会社では借地権の売買は専門外です。

借地権の売買は、不動産売買の専門業者に任せるべきです。