事故物件の取り扱いに関する指針案が公表されました(その2)

※昨日投稿した内容の続きです。

国土交通省が公開したガイドライン(案)の概要を整理すると、以下の通りになります。

・ガイドラインの適用対象は居住用不動産であり、オフィスなどの事業用物件は適用範囲外
・他殺、自死、事故死(日常生活の中における不慮の死を除く)、原因が明らかではない死亡が発生した場合は事故物件とみなす。このため入居希望者、または購入希望者に対する告知義務がある。
・上項の「日常生活の中における不慮の死」とは自宅の階段からの転落事故、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥による死をいう。死亡の原因がこれらである場合には、告知義務はない。
・居住者が亡くなった原因が老衰、持病による病死のようないわゆる自然死である場合は、原則として事故物件とは見做さない。従って、入居者を募集し、または売却する際の告知義務はない。
・自然死や日常生活の中における不慮の死であっても、長期間にわたり人知れず放置されたことから室内外に臭気や害虫が発生し、特殊清掃が行われた場合は事故物件と見なし、告知義務が生じる。
事故物件として告知義務が生じる場合、その期間は、死亡の時点から3年間とする。
・玄関、エレベーター、廊下、階段、バルコニー等の共有部における死亡事案は、日常生活において借主・買主が通常使用すると考える部分で発生した場合には告知義務の対象となる。

ガイドラインとして正式に運用された場合の問題点
実務上、特に問題になるのは赤字の箇所です。今日は、問題点について書きます。

1.告知義務の期間を「3年」と固定することについて
都心にある賃貸物件の一室で自殺等の死亡事案が発生し、心理的瑕疵がある状態になった場合、実務上は退去後に最初に入居する方のみに告知義務があるとされていました。入居した方が2~3か月程度で退去した場合、その次の入居者には自殺の事実を告げる必要が無いとされていました。しかし、このガイドラインが正式なものとして運用されると、3年間の告知義務が課せられます。

これにより、不動産会社が事故物件(賃貸物件)に自社の従業員を1~2か月生活させ、これにより心理的瑕疵がなくなったとして「告知事項あり」とせずに新たな入居者を募集することはなくなることが期待できます。

オーナーが「告知事項ありとして入居者募集することを避けたい」と強硬に要望した場合、このような荒技を行う不動産会社があります。しかし、ガイドラインが指針案通りに適用された場合は、オーナーの意向を反映できなくなります。賃貸住宅の利用者にとっては朗報となります。

都心で営業している不動産会社の大半は、国土交通省が告知義務の期間を「3年」と定めるのであれば、それでも構わないと考えると思います。なお、一部のオーナー様は不満に思うかもしれません。

しかし、郊外や地方都市の中には、慣習により告知義務が課せられる期間を長く設定している地域があります。10年、または半永久という扱いをしているところがあります。

郊外では、自殺等の死亡事案は近隣住民の間で噂になりやすく、しかも地元から転居する方は多くないことから近隣住民の記憶に長く残る傾向があります。このため、告知義務を長く設定する慣習が存在する地域があります。

このガイドラインが正式に運用されると、告知義務を課す期間を全国一律に「3年」と定めることになります。郊外や地方都市の住民、および不動産会社から「地域の慣習を無視している。告知義務を課す期間が短すぎるのではないか。」との声が上がると思います。

2.建物の共用部で人が死亡した場合、建物の全体が事故物件との扱いを受けることがある
従来は共有部における死亡事案に対する告知義務はないとされることが大半でしたが、ガイドラインが正式なものとして運用されると、建物全体が事故物件であるとして3年間の告知義務が課せられることになります。

問題なのは、マンション等の建物に、当該建物とは無関係の第三者が侵入し、屋上や共用階段から飛び降り自殺を図った場合です。屋上に施錠措置がなされていれば、「日常生活において通常使用する部分」とは見做せませんので、亡骸が隣地や道路に落下した場合であれば当該マンションは事故物件になりません。

しかし、飛び降り自殺を図った現場が共用階段である場合、または屋上から飛び降りた場合でも亡骸が玄関などの共用部に落下した等の場合は建物全体が事故物件と扱われ、全ての部屋について3年間の告知義務が課せられることになります。

共用で利用するエレベーターの点検作業中に、メンテナンス業者の作業員が事故で死亡した場合も、建物全体が事故物件と見做されることになります。全ての部屋が事故物件として扱われ、3年間の告知義務が生じます。

いずれも従来は「事故物件」とは見做されず、告知義務はないと扱われてきました。しかし、ガイドラインが指針案の通りになると、今後は全ての部屋において新たに3年間の告知義務が課せられることになります。これは建物および区分マンションの所有者にはかなり大きな負担になります。

賃貸物件の場合、3年間は家賃を下げないと入居者が決まりにくくなりますし、マンション一室の所有者(区分所有権者)がその一室を売却する際にも、3年間は価格を下げないと売却できなくなります

5月26日午後1時追記:
「指針案を精読すると、売買物件における告知義務期間は3年ではなく、『永久』と読めるのではないか」という指摘がありました。再度精読すると、「明確な期間を定めていない」というのが正しいように思います。つまり、従来通りの扱いと考えられます。このため、一部訂正させていただきます。

3.建設中の建物も、事故物件になる可能性がある
更に問題なのは、新築マンションの建設中に事故が発生し、作業員が共用部になる予定の場所で死亡した場合です。

従来は、完成したマンションの購入希望者に対する告知義務はないとされています。しかし、ガイドラインが指針案通りに運用されると新築建物の全体が事故物件と扱われ、3年間の告知義務が課せられます。「新築」としての価格で売ることは出来なくなり、建設業者は建築主から多額の損害賠償を請求されることになります。

建設業者の過失により作業員が死亡すると、建築主(マンションディベロッパー)が多大な不利益を被るのでは、新築マンションを供給しようとする建築主がいなくなる恐れがあります。