一般媒介契約では借地権売却に対応できません

相談事例です。

相談事例(借地権売却)

 東京都内にある1棟ものの店舗付き賃貸マンションを相続しました。1階を店舗、2階以上を住宅として貸していますが、コロナ禍の長期化により退去が続きました。現在、空室が複数ありますが、次の入居者がなかなか決まりません。
 土地の権利は借地権(旧法借地権)です。数年後に到来する次の更新時に支払う契約更新料のことを考えると頭が痛くなります。
 このような状況なのでこの賃貸マンションの売却を考えています。早く売却したいため、御社を含めた数社に一般媒介契約による売却をお願いしたいと考えていますが、受けていただけますか?

※プライバシーに配慮し、事案を多少アレンジしています。

 相談者は不動産取引に関するネット上の情報を調べていらっしゃいました。専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約の違いについても十分に理解されていました。

 専属専任媒介契約または専任媒介契約では、売主側の不動産会社は売主様が指定する1社のみとなります。一般媒介契約の場合は、同時に複数の不動産会社に売却を依頼できるとされています。

 三種類の媒介契約における違いについて説明するWEBサイトは数多くあります。詳しい説明はそちらに譲りますので必要な方は検索願います。

 相談者は「一般媒介契約にすれば、多くの不動産会社が競争することにより早期に契約を締結できる。」という情報を目にしたとのことでした。そこで「一般媒介契約による売却をお願いしたい」という要望を出されたのですが、問題は地主との交渉です。

 借地権(当然建物がある)を売却する際は地主の許可が必要であり、許可を得るためには承諾料の支払いが必要です。承諾料の金額は土地賃貸借契約に記載されています。しかし、実勢価格の○○%と記載されていたり、相続税路線価の△△%と記載されていることがあります。実勢価格をベースとしている場合、ベースとなる地価をいくらに設定するかが問題になります。

 土地賃貸借契約の締結が数十年以上前で法定更新を繰り返している場合等では契約書に承諾料の記載がないことがあります。この場合は承諾料の金額が問題になります。「契約書に承諾料に関する記載がなければ地主は承諾料を請求できない。」とする学説があります。しかし、実務では双方の話し合いにより決めることがよくあり、双方が納得しない場合は裁判で決着を図ります。

 借地権売却に関する承諾料の金額を決める作業は、かなりの労力を要します。地主としても一般媒介契約を締結した複数の不動産会社の各々と個別に交渉することは煩雑です。「交渉の窓口となる不動産会社を一つにして欲しい。それができなければ借地権の売却を許可しない。」と言われてしまいます。

 また、借地権を設定したのが何十年も前である場合、複数の借地における土地の境界が不明確であることがよくあります。広大な土地を区切り、複数の借地として貸している場合は各々の借地について確定測量が必要になることがあります。

 確定測量を行う場合、隣接する借地における借地権者と協議し、境界を定める必要があります。また、測量費用を誰がどれくらい負担するかを決めなければなりません。これらは難しい交渉になることがあります。

 相談者には一般媒介契約による販売活動は極めて困難であり、窓口となる不動産会社を1社のみにする必要があると説明しました。このため一般媒介契約で販売活動を行うことは考えられず、専属専任媒介契約または専任媒介契約を締結するしかない旨を伝えました。  

 さらに承諾料が決まらない場合は裁判になる可能性がある旨、および土地の測量費用が発生する可能性がある旨を伝えました。相談者は「売却するかについて、家族と相談します。」と言い、帰られました。