住宅ローンで購入した物件を、転勤により収益物件にする際は要注意

春は異動の季節です。住宅ローンを利用して自宅を購入された方が勤め先から転勤命令を発令されたことにより、元の自宅には数年以上戻れないことが確実になった場合、住宅ローンの返済原資に充てるために自宅を賃貸住宅として貸すことをお考えになる方が多いと思われます。

このような場合、融資してもらった金融機関に断りなく賃貸住宅として貸し出すと大変な目に遭います。最悪の場合、住宅が競売にかけられ、全財産を失う事態が想定されます。今日は、これらについて書きます。

住宅ローンと事業用ローン
自宅は、全ての方において必要不可欠なものです。住宅ローンの返済原資は給与収入であり、安定した収入が見込まれ、返済が滞るリスクが低いです。このため、金融機関は住宅ローンの金利を低く抑えています。

住宅を購入される方の多くは、住宅金融支援機構および民間金融機関が提携して提供するフラット35を利用します。2021年3月におけるフラット35の金利(最頻金利)は、返済期間15~20年の場合で1.260%、21~35年の場合で1.350%です。

ローンによる収益用不動産購入に際しては住宅ローンを利用できず、事業用ローンを利用することになります。金利は事業内容、提供する担保の有無、借入金額によりかなり異なりますが、賃貸住宅の購入目的で、購入する物件に抵当権または根抵当権を設定する条件で都市銀行から借りる場合には3~4%程度を提案されることが多いです。ノンバンクから融資を受ける場合は6%超になることがあります。

収益用不動産を購入するための融資における返済原資は「家賃」です。「家賃」には空室および家賃滞納リスクがあり、収支がマイナスになり返済が滞るリスクがあることから金利が高く設定されています。

収益用不動産(収益物件)を購入する際に、住宅ローンを利用してしまう方がいる
住宅ローンの方が事業用ローンよりも金利が低く、さらに住宅ローンを利用する方には所得税が減税される優遇制度があることから、収益用不動産を購入する際に「自己居住用の不動産を購入する」と偽り、住宅ローンを利用する方が散見されます。

悪徳不動産業者の甘言がきっかけで住宅ローンの利用を勧められ、住宅ローンで収益物件を購入してしまう方がいます。

住宅ローンで収益用不動産を購入した場合
しかし、住宅ローンで収益用不動産(収益物件)を購入したことが金融機関に発覚すると、後で大変なことになります。このような場合、金融機関は容赦なく返済に関する期限の利益喪失を通告し、貸付金の一括返済を求めてきます。悪徳不動産会社の甘言がきっかけであっても言い訳にはなりません。購入した収益物件の売却を迫られ、場合により全財産を失うことがあります。

2018年には住宅ローンであるフラット35を悪用して収益物件を購入した投資家が大勢摘発されました。最終的には一括返済を求められ、破産した方が多くいます。フラット35を悪用する行為であり、住宅金融支援機構および金融機関を騙す行為であることから、このような行為は詐欺罪に問われる可能性があります。

転勤等の理由により、自宅を賃貸物件に転用する際は要注意
勤務先から長期の転勤を命令されたことにより、住宅ローンを利用して購入した自宅を賃貸物件に転用する際には特段の注意が必要です。

住宅ローンを利用した融資を受けた金融機関に相談することなく、自宅を賃貸住宅として貸し出す方がいますが、これは絶対に行うべきではありません。当初は自身が居住する目的で購入した住宅でも、賃貸住宅に転用して他人に貸す行為は「事業」になります。賃貸住宅への転用を行う理由が、自分の意思によらない転勤である場合でも、賃貸住宅への転用を開始した時点から住宅ローンの利用は認められません。

多くの場合、賃貸住宅として貸し出す場合は事業用ローンに切り替えるように金融機関からお願いされることになります。転勤が確実になった時点で金融機関に相談する必要があります。事業用ローンに切り替えると利率が上がり、毎月の返済金額が増えますが、仕方ありません。

金融機関に相談せずに賃貸住宅として貸し出すと、住宅ローンで収益用不動産(収益物件)を購入した場合と同様に、金融機関は期限の利益喪失を通告し、貸付金の一括返済を求めてきます。自宅の売却を迫られるだけではなく、全財産を失うことがあります。

勤務先から長期の転勤を命令され、住宅ローンを利用して購入した自宅を他人に貸し出す場合は、金融機関に相談することが重要です。

自己居住用の住宅が賃貸住宅に転用されたことが発覚する理由
金融機関が住宅ローン利用者宛に差し出した郵便物が届かず、返送されたことが原因で発覚することが多いようです。特に「転送不要」で差し出した郵便物が返送された場合、金融機関の担当者は現地を訪問し、表札を確認します。

また、金融機関の担当者が挨拶回りで訪問し、表札が別人のものであることから調査の対象になり、発覚することがあります。