コロナ感染した賃借人が自宅療養になった場合における管理会社の対応

賃借人の中に感染者が発生した場合に対応について、以前の投稿に書きました。この投稿では、感染した方が入院することを前提として書きました。

ところが、報道されているとおり、東京都や神奈川県では新型コロナウイルス感染症に感染したことが検査で確認されても入院出来ず、無症状、または軽症の場合は自宅に留まるよう、保健所から指示される方が増えています。

賃貸アパートや賃貸マンションであっても、自室に留まるように指示される方が増えています。

原則として、感染が確認された方が病院または療養用ホテルに搬送された後に、保健所は消毒命令を発令し、建物所有者または管理会社が手配した消毒業者が室内を消毒します。近隣の部屋、及び共有部分に対する消毒の要否は、保健所がその都度判断するとされています。

新型コロナウイルスに感染していることが確認されたにもかかわらず、自宅待機とされた賃借人が出た場合に、オーナーおよび管理会社はどのように対応するべきかという問題があります。この状況では、保健所は消毒命令を出せないのが通常なので、対応が問題になります。

1.管理会社の担当者による訪問は不可
管理会社としては賃借人の体調を確認し、いつ頃入院するのか等を聞き出したいところだと思います。しかし、訪問ができないので、賃借人に対する電話、またはメール、LINE等により確認するしかありません。

電話を何回かけても応答が無く、メールやLINEに対する返信がない場合があります。重症化し、室内で倒れているかもしれませんが、防護服を着用したとしても、オーナーや管理会社が部屋を訪問して玄関の扉を開けることは危険です。防護服を脱ぐ際には脱ぎ方があり、方法を誤ると感染します。保健所に連絡し、対応してもらうことをお勧めします。

2.同じ建物内における他の居住者に対し、どのように説明するか
複数の防護服を着た者が室内の居住者を外に連れ出す、または消毒作業を行わない限り、近隣の部屋の方が感染者が発生したことに気付く恐れは少ないと思います。

しかし、情報を入手した、または怪しんだ居住者が、オーナーや管理会社に感染者発生の有無、感染者の部屋番号および氏名を尋ねてくることがあります。この場合、感染した賃借人の部屋番号や氏名を教えてはいけません。

ある感染症に罹患しているか否かに関する情報は個人情報であり、むやみに口外することは許されていません。それに、うっかり教えると集団パニックが発生し、収拾が付かなくなる恐れがあるからです。

「皆様の安全には十分な配慮をしています。保健所と緊密に連絡して対応しますので心配はありません。」等と説明する必要があります。共用部や部屋を消毒するかについて尋ねられた際には、「保健所が判断することになっており、その指示に従います。」等と回答するのが無難です。

同じ建物の居住する他の賃借人に対し、感染者が発生した旨を知らせるべきかは検討を要します。「注意喚起をするため、エントランス部分に掲出して告知するべき」との見解がありますが、感染した賃借人が居室内に留まっている状況では告知するべきではないと考えられます。

建物内に感染者が留まり続けており、消毒が行われていないことを他室の居住者が知った際に、パニックを起こす恐れがあります。「今すぐに追い出して欲しい」とか、「この状況で新たな感染者が発生した場合、その責任は消毒をすることなく放置したオーナーと管理会社にある」などのクレームが殺到し、収拾が付かなくなる恐れがあります。

3.共用部分を消毒するべきか
エレベーター、階段、エントランス部分等の共用部を消毒するべきかは悩ましいです。判断を保健所に委ねても構わないと思いますが、保健所には回答する余裕がないかもしれません。管理会社が共有部分に対し何も対処しない状況で新たな感染者が発生した場合に、この新たな感染者が「オーナーや管理会社が共有部分の消毒を怠ったから感染した」等の主張をする恐れがあるので厄介です。

新たな感染者が「共用部分から感染した」ことを立証するのは困難です。しかし、「安全配慮義務を怠ったから感染した」として損害賠償を求める裁判を提起する恐れがあります。

消毒会社に連絡し、共有部分を消毒することは可能です。しかし、消毒作業は大変に目立ちます。共有部の消毒作業が行われたものの、感染者が建物内に留まっているという事実を知った場合、感染者の発生を知らない居住者が見つけて大きく騒ぎ出す恐れがあります。

管理会社の実務として考えた場合、建物が小規模で、全ての住人が感染者の発生を知っている状況でなければ、感染者が建物内に留まっているにもかかわらず、共用部を消毒会社に消毒してもらうことは困難でしょう。

なお、消毒業者による消毒作業を行えない場合でも、普段の清掃に加え、手すりやエレベーターのボタンをアルコールや次亜塩素酸水等で消毒する配慮は必要であると思います。

4.感染者が病院または療養用ホテルに移動した後
賃貸住宅の場合、保健所による消毒命令が発令されることが大半です。この場合、消毒業者が感染者の居室を消毒します。近隣の部屋や共用部については、消毒の必要性を保健所が判断します。

感染した居住者が病院または療養用ホテルに移動した後も、他の居住者がオーナーや管理会社に感染者の部屋番号や氏名等を尋ねてくることが想定されます。この場合も、感染した賃借人の部屋番号や氏名を教えてはいけません。

快復して部屋に戻ってきた後に、誹謗中傷をする居住者が現れる原因になるからです。