収益用区分マンション、賃貸中でマイナス収支の場合

 ご承知の通り、「老後は2,000万円が必要」というフレーズがあります。このフレーズが一人歩きしたことから多くの方が「投資をしなければ生きられない」と感じたようです。

 さらにコロナ禍の長期化により特に飲食業が壊滅的なダメージを受けました。このため、収益用不動産に対する空前のブームが到来しました。

 収益用不動産には1棟もののマンション、アパート、賃貸用戸建、事業用ビル等、様々な種類があります。その中でも賃貸用区分マンションは価格が安いことから多くの方が注目し、主に若いサラリーマンが副業目的で購入しています。

 購入した方の多くは「購入したら直ちに不労所得を得られる」と考えたようです。しかし、賃料収入が低いのに管理費や修繕積立金、ローンの返済額等が高額で、マイナス収支である物件が数多くあります。

 契約の時点でマイナス収支になることがわかっているのに購入し、後悔している方がいらっしゃいます。しかし、不動産会社の目線で見た場合、マイナス収支である物件をなぜ敢えて購入するのかとても不思議です。

 質の良くない不動産会社の営業担当が「毎月数万円の持ち出しになりますが、20年で自分のものになります。」等と言うようです。最初からマイナス収支であることを説明しているので、このような物件を販売しても違法ではありません。また、説明をしているので「不動産会社が騙して購入させた」という評価は該当しません。

 しかし、マイナス収支の物件である旨の説明を受けながら、なぜその物件を購入するのか、全く理解できません。

 また、入居者が退去したことから入居者を募集しているものの長期間空室である物件が激増しています。東京都区部では賃貸用区分マンションが供給過剰なので、空室が埋まりにくくなっています。

賃料の値上げは困難

 マイナス収支である現状を変えたいとして、賃料の値上げを考えるオーナー様が多くいらっしゃいます。しかし、賃料は地域毎に相場があり、相場を無視した賃料を設定しても入居希望者は現れません。

 また、現在賃貸中である物件の値上げは非常に困難です。契約更新時に値上げを求めることは一応可能ですが、多くの場合に断られます。

 値上げを提案したばかりに通常の契約更新ができず、法定更新になり、賃料として従前の金額が供託されることがあります。このような状況になるとオーナー様と賃借人との関係が険悪になり、室内を乱雑に使用される等の原因になります。最悪の場合は賃借人が退去し、家賃を値上げできないばかりか賃料を全く得られない事態に陥ります。

 賃貸用区分マンションがマイナス収支である場合、対応策が問題になります。

可能であれば一番良いのは損切りと売却

 マイナス収支の物件では、マイナスをこれ以上増やさないようにすることが重要です。損切りして売却することが損失を最も少なくできます。

 収益用不動産の運営は「事業」であり、不採算で改善する見込みがない場合は手を引く必要があります。

 マイナス収支の物件は、価格をかなり安くしなければ売却出来ません。購入価格の3割以上の金額を損切りして売却しなければならない場合もあります。

 「簡単に言わないで欲しい。」という声が聞こえてきそうです。しかし、損失を膨らませ過ぎると設備の故障や空室期間が長引いた等の場合に対応出来なくなります。管理費や修繕積立金、税金を滞納すると不動産を差し押さえられ、任意売却や不動産競売で安く売られることになります。

 なお、事業用ローンを利用して物件を購入した場合、損切りを行うための資金がなければ事業撤退は難しいかもしれません。

 事業用ローンを利用すると、「不採算事業からの撤退」が出来なくなるおそれがあります。このため、収益用区分マンションの購入に際しては事業用ローンの利用を避け、余裕資金による購入をお勧めします。事業用ローンは1棟もののマンションやアパートの購入時に利用するべきであると思います。