競売、任意売却物件が増えても不動産は安く買えない

 前日の投稿では、近いうちに不動産価格が大幅に下落することはなさそうである旨を書きました。

 近いうちに不動産価格が暴落するとする論調の中に「今後は住宅ローンの返済が出来ない方が爆発的に増え、多くの不動産が安値で叩き売られる状況になるので不動産価格は暴落する。このため、今は買わない方が良い。」とするものがあります。

 昨日の投稿ではこの考えが妥当かについて触れませんでしたので、本日はこれについて書きます。

 新型コロナウイルス感染症の蔓延が長期化し、多くの企業が廃業または倒産しています。また、事業縮小のあおりを受け、勤務先を解雇された方が多数いらっしゃいます。

 住宅ローンを利用して自宅を購入したものの解雇され、次の職場が見つからないことから返済ができなくなる方が増えています。

 コロナ禍は終息しつつありますが、急激な円安と物価高のために景況感が悪化しています。住宅ローンの滞納事案は今後も増えると思われます。

 住宅ローンの滞納が発生すると、金融機関またはサービサーは期限の利益を喪失したものとして残債の一括返済を求めます。残債を一括返済できない場合、不動産が差し押さえられます。その後は地方裁判所が開催する「不動産競売」で売却されるか、不動産競売の実施前に「任意売却」で売却されます。

 どのくらい安く売られるかはエリア、立地、利便性などの諸条件により異なります。一概には言えませんが不動産競売では市場流通価格(実勢価格)の3~7割、任意売却では7~8割程度になることが多いです。

 不動産競売の場合、ローンを利用した購入にも対応できるように法改正されました。しかし、住宅の購入を希望する個人に住宅ローンを提供する金融機関はほとんど存在しません。不動産の状態が良くないことが多く、明け渡しがスムーズに行われるか不明な物件への融資はリスクが極めて大きいからです。

 任意売却の場合、購入希望者が現れても、不動産競売の実施が近づいています。2~3週間を要する住宅ローン審査を行う時間的余裕がないので、住宅ローンの利用を前提とする個人が購入することはできません。

 以上の理由により不動産競売又は任意売却により物件を購入できるのは、購入代金を一括で支払える資力がある不動産会社のみです。個人が住宅ローンを利用して購入することは極めて困難(というかほぼ無理)です。

 不動産競売や任意売却で売却される物件の多くはメンテナンスが行き届いておらず、基本的に現況渡しになります。しかし、不動産会社が売主として個人に物件を売却する場合、契約不適合責任の免責特約を設けることは法令で禁止されています。

 免責にならないので不動産会社はリフォームを行い、故障した設備の撤去や新品への入れ替えを行います。リフォームおよび設備の交換に要した費用は販売価格に反映されます。

 また、不動産会社は1~2割程度の利益を乗せた価格設定をします。その価格は概ね市場流通価格(実勢価格)に近くなります。従って、不動産業に携わらない個人がこれらの不動産を安く購入できることはありません。

 前述した「今後は住宅ローンの返済が出来ない方が爆発的に増え、多くの不動産が安値で叩き売られる状況になるので不動産価格は暴落する。このため、今は買わない方が良い。」というロジックは、残念ながら成立しません。

 今後は住宅ローンの滞納増加により不動産競売、任意売却物件が増えることが確実です。しかし、不動産業に携わらない一般の個人が不動産を安く購入することはできないという結論になります。