オーナー様からの「賃借人を追い出してくれたら~してあげる」というお誘いは全てお断りしています

 新型コロナウイルス感染症がなかなか終息しないことから飲食店や物販店の自主廃業および倒産が多く発生しています。解雇される方および賃金カットを受ける方が増えており、これに伴う家賃滞納も増える一方です。

 賃貸保証会社が賃借人との間に保証契約が締結されていれば、家賃が滞納されてもオーナー様は賃貸保証会社より代位弁済を受けることができます。問題は、家賃を滞納する賃借人が保証契約を締結しておらず、連帯保証人も何らかの事情により無資力に陥っている場合です。

 この場合、オーナー様は賃貸借契約を解約し、賃借人に対し明け渡し請求を求める裁判を提起することになります。ところが、このブログにおいて繰り返し書いているとおり、裁判所が行う強制執行により明け渡しが実現されるまでにはかなりの日数を要します。家賃の滞納が始まってから半年~1年以上を要することがほとんどであり、その間の家賃収入は得られません。

 東京都区内の場合、裁判費用は数十万円~100万円超になることがほとんどです。法律上は賃借人および連帯保証人に請求できますが無資力であることがよくあります。この場合はオーナー様が負担するしかありません。

 裁判手続きにより退去させるためには多額の費用が発生し、かなりの日数を要します。特に、複数の部屋において同時に滞納が発生した場合は「早急に退去させないと大変なことになる」として「裁判外の方法で追い出したい」とお考えになるオーナー様が多いです。私の会社も「裁判外の方法による賃借人の追い出し」を相談されたことが何回かあります。

オーナー様による「賃借人を追い出してくれたら~してあげる」というお誘い

 「家賃を滞納し続けている部屋が二部屋あります。多少手荒な方法でも構わないので二部屋とも今すぐに追い出してください。追い出してくれればその後のリフォームおよび次の入居者募集を御社にお任せします。入居者募集は専任媒介で行っていただいて構いません。」とか「追い出してくれたら物件の管理をお任せします。」とのお誘いを受けることがあります。

 相談されるのは、家賃を滞納している賃借人と家賃保証会社との間の保証契約が締結されておらず、かつ物件の管理をオーナー様自身が行っている賃貸物件のオーナー様です。

 家賃を滞納している賃借人に退去をお願いしても「引っ越し先の入居審査を通過出来ないので引っ越しできない」、「家賃、仲介手数料及び引っ越し費用を支払えない」等と主張され、居座り続けることがほとんどです。

 しかし、まともな不動産会社であれば「追い出し屋」の利用を控えます。多くの「追い出し屋」は反社会的勢力と繋がっているからです。

 それに暴力的な方法を用いて追い出した場合は賃借人がNPO団体に駆け込み、NPO団体の顧問弁護士を通じて追い出し行為を行った不動産会社が損害賠償を請求され、さらに警察に告訴されることがあります。特に東京都区内ではこのようなことになりがちです。

 また、「追い出し屋」を利用しなくても、不動産会社の社員が暴力的な方法による追い出し行為を行った事実が宅地建物取引業の免許権者(東京都の場合は東京都または国土交通省)に発覚すると、ほぼ間違いなく事務停止処分を受けます。追い出しの際に賃借人を傷害した、窃盗・強盗・恐喝・監禁等の行為が行われた等の場合は宅地建物取引業免許を取り消されることがあります。

最終的には明け渡しを求める裁判を提起するしかない

 オーナー様から「今すぐに追い出してくれたら専任媒介による入居者募集を認める」とか「管理を任せる」等と言われても、力ずくによる追い出しは明白な違法行為です。不動産会社におけるリスクはあまりにも大きく、お断りするしかありません。

 郊外にある不動産会社の社長から「不動産屋の社員が家賃を支払わない借主を殴ることは日常茶飯事。借主が警察に通報しても警察官が『家賃を支払わないあなたが悪い』と借主に説教して終わり。暴力を用いた追い出しができなければ、一人前の不動産屋とは認められない。」と言われたことがあります。

 しかし、このような論理は東京都区内では通用しません。暴力行為は検挙され、損害賠償を請求されます。東京都区内の賃貸物件において、家賃を滞納する賃借人に退去を求めても自発的に退去しない場合は、明け渡しを求める裁判を提起するしかないと言えます。