他社が仲介業務を開始している案件に対するセカンドオピニオンはしないことにしました

 お客様から受ける相談の中には、いわゆるセカンドオピニオンが欲しいというものがあります。代表的なパターンを例示します。

※相談者のプライバシーに配慮し、実際の相談内容を一部アレンジしています。

セカンドオピニオンを求める相談の例

1.ポータルサイトで○○町△丁目の中古区分マンションが売られているのを知り、ポータルサイトに掲載している不動産会社に連絡して内見を行い、価格交渉を始めている。内見した際に楽器の音が聞こえた。その他にも一抹の不安があるので、近日中に2回目の内見をお願いしている。その際に同行してもらえないか。率直な意見を訊きたい。 

2.自宅を売却したいので駅前の○○不動産に相談したところ、『隣地との境界が不明確なので隣地所有者と協議して境界を画定し、測量しなければならない。』と言われた。隣地所有者との協議を○○不動産に依頼して境界を画定し、○○不動産から紹介された土地家屋調査士に測量してもらった。ところが実測面積は、登記簿記載の面積よりかなり少なく納得できない。このまま○○不動産に売却を任せて良いかについて一抹の不安があるので意見を訊きたい。

 いずれのパターンも「セカンドオピニオンが欲しい」というものです。しかし、他の不動産会社が仲介業務の一部を既に実行していることから対応に苦慮します。 

 相談者に対し購入や売却を前向きに進めるように提案した結果、相談者が売買契約を締結したとします。その後に何らかの新たな事実が判明して相談者が損失を被った場合、誤ったセカンドオピニオンを受けたとして抗議される恐れがあります。

 セカンドオピニオンを提示しただけであれば仲介業務を行ったわけではないので損害賠償責任は生じないと思われます。しかし、道義的な責任はある程度生じますし、SNS等で悪評が立つ恐れがあります。

 また、相談者に対し購入や売却を控えるように進言した場合、他の不動産会社が既に仲介業務を開始していればこの不動産会社から「営業妨害事案」と見做され、深刻なトラブルに発展する恐れがあります。

抜き行為

 さらにセカンドオピニオンに基づき相談者が仲介業務の依頼先を変更した場合、いわゆる「抜き行為」が行われたと見做され重大なトラブルに発展する恐れがあります。

 既に仲介業務を引き受けている会社が存在するのに後から入り込み、お客様を自社に誘引する行為は業界用語で「抜き行為」と言われ、業界内で忌み嫌われる行為の一つです。

 お客様の大半は「どの不動産会社を選択するかは自由である」という認識をされているようです。しかし、ある不動産会社に仲介業務を依頼し、その不動産会社において相応の費用を支出している場合は仲介業務を成約させることにより支出した費用を回収することを考えています。お客様の都合で仲介の依頼先を安易に変更したり、他の不動産会社の「抜き行為」に応じると、仲介業務を依頼した不動産会社との間に深刻なトラブルが発生することがよくあるので要注意です。

 もちろん仲介を依頼した不動産会社がお客様に対し、何らかの違法行為や不始末を行った事情があれば仲介の依頼先を変えることは自由です。 

 上述した2の相談事例では○○不動産が隣地所有者との間で協議を行い、境界を画定しています。その際には役所や法務局に赴き調査した時間に対する労務費、調査資料を受け取る際の手数料、隣地所有者との協議時間に対する労務費、挨拶の際に持参した菓子折等の購入費用、弁護士や土地家屋調査士に助言を依頼する費用、現地に赴く際の交通費等が発生しています。 

 「抜き行為は違法ではない。モラルなど言っていられない。」として、歩合制で雇用されている営業担当者の中には「抜き行為」を積極的に行う輩が存在します。このような者は目先のことしか考えず、「自分の成績になることであれば何でもやる」という発想をしがちです。 

 特に上述した2の相談事例では、このような営業担当であれば相談者に対し「全て私に任せてください。○○不動産との間で締結した媒介契約については解約する旨を伝え、仲介を断ってください。」等と言いそうです。

抜き行為の代償(不動産会社)

 しかし「抜き行為を行う代償」はとても大きいことがあります。筆者は不動産会社の経営者なので、この点を考えないわけにはいきません。

 「抜き行為」を行った場合、その不動産会社は相手先の不動産会社から出入り禁止を申し渡されます。その後の取引は一切できなくなり、物件情報の提供も行われなくなります。来店されたお客様から「ポータルサイトを見て気に入った物件がある。お宅の会社で内見の手配をして欲しい」と言われたとしても、元付業者が「抜き行為」の相手先である場合は内見を断られることになります。

 相手先が老舗である等、物件が所在するエリアにおける有力な不動産会社の場合はエリア全体に「抜き行為が行われた」という情報が流布されることがあります。すると、当該エリアにある多くの不動産会社から「老舗の□□さんに抜き行為をした、恥知らずな不動産会社」と断じられ、取引を断られることがあります。

 相手が大手不動産会社の場合は問題が発生した支店だけではなく、全ての本支店において一切の新規取引(内見を含む)を断られることにつながります。

抜き行為の代償(お客様)

 また、お客様が「抜き行為」に応じて他の不動産会社において成約した場合は、「抜き行為」をされた不動産会社がお客様に対し商法第512条における報酬請求権を行使し、民事訴訟を提起することがあります。

商法

(報酬請求権)
第五百十二条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

 特に仲介手数料が高額な場合は、ためらうことなく民事訴訟が提起されます。敗訴した場合、お客様は二つの不動産会社に仲介手数料を支払わなければならなくなります。つまり二重払いをしなければいけなくなります。

 怖いのは、自ら「抜き行為」をしている認識がないにもかかわらず「抜き行為に応じた」として提訴され、敗訴することです。

まとめ

 相談者から「セカンドオピニオンが欲しい」と言われた際にセカンドオピニオンを提示することは親切な行為であるように思えます。このため、相談をした際にセカンドオピニオンを提示する不動産会社は多いと思います。 

 しかし、セカンドオピニオンを提示したことにより相談者が深刻なトラブルに巻き込まれるのでは本末転倒です。親切心で行った行為が却って徒になります。

 今後、他の不動産会社が仲介業務の一部を既に実行している案件については、セカンドオピニオンを求める相談には対応しないことにしました。よろしく御理解ください。