困った相談(その24、不動産業を開業するのでノウハウを教えて欲しい)

 宅地建物取引士の試験に合格した方から「不動産業に関しては未経験です。将来は不動産会社を開業したいので御社で2~3か月程度働かせていただき、ノウハウを学びたいのですが可能ですか。」という問合せをいただくことがあります。

 また、「宅地建物取引士になりたい(宅建試験に合格したい)ので、御社で期間限定のアルバイトまたはパートとして雇っていただけないか」という問い合わせがあります。

前者について

 不動産業は裾野がとても広いです。また、開業したいエリアにより慣習が異なるのでそれについても学ぶ必要があります。

 宅地建物取引業を構成するものとしては不動産賃貸仲介業、不動産売買業、不動産売買仲介業があります。また、法律上は宅地建物取引業に属さないとされているものの「不動産業」と見做されるものとして不動産賃貸業、建設業、地主業、不動産管理業、不動産証券化事業、その他があります。

 また、売買業および売買仲介業には土地、新築戸建住宅、中古戸建住宅、中古区分マンション、競売不動産、収益用不動産のいずれかに特化して事業を展開しているところが多いです。

 個人が不動産会社を立ち上げて、これらの全てを行う事は無理です。開業した場合は何らかの分野に特化して営業する必要があります。分野を特化する際にはどのエリアで営業するか、開業資金をどのくらい用意できるのか(従業員を多く雇えるか、駅前で店舗を構えられるか)等も大きく関わります。

 賃貸仲介業を開業する場合は駅前、それも可能であれば特急・急行停車駅の駅前で視認性が良好で多くのスタッフを雇う必要があります。ところが駅前が再開発されて高層の事業用ビルだらけになり、個人が不動産業を開業するには家賃があまりにも高額で、入居可能な店舗が全く存在しないことがあります。

 仮に入居出来る店舗があるエリアでも既に多くの賃貸仲介業専業の不動産会社が軒を連ねていたり、近くに多くの従業員を雇用する「老舗」の不動産会社が存在すると不動産会社間の競争が激烈であり事業を成功させることはかなり困難です。

 「不動産の契約が電子化されるので、今後は駅前に店舗を構える必要がなくなる。」という内容の記事が不動産に関する解説本やWEBサイト、雑誌などに掲載されています。しかし、「大半のオーナー様の認識」は「駅前の店舗でなければ借主はなかなか決まらない」というものです。オーナー様の大半は駅前の店舗でなければ客付けを依頼しないので、賃貸仲介業を開業する場合は駅前の視認性が良好な場所に開業する必要があります。

 売買業または売買仲介業を開業する場合は、物件情報を得るチャンネルを多く獲得する必要があるので、他の不動産会社との連携が欠かせません。近隣の不動産会社が全てライバルである環境では他社の協力を得られないので事業が成立しません。多くの不動産会社と懇意にし、自分のことをよく知ってもらう必要があります。

 どの分野で開業するにしても2~3か月程度働いただけでノウハウを得られることはありません。このため、相談に来られた方には「開業するエリアの概要および資本金の金額が確定し、展開する事業内容がある程度決まってから考えましょう。」と回答しています。

後者について

 宅地建物取引士資格試験の出題内容の多くは法律や政令、慣習に関するものです。あくまでも私見ですが、不動産会社で実務を習得しても試験に役立つ内容はあまり多くないと思います。

 不動産会社の多くは専門分野に特化しているところが多いです。例えば不動産賃貸仲介業に特化している不動産会社に勤めると、賃貸物件を探しているお客様のご案内に関する話術、内見の方法、入居審査、エリアにおける慣習について学べると思いますが、不動産売買に関する知識を得ることは困難です。

 重要事項説明書および契約書の作成は宅地建物取引士の仕事です。大きな責任が伴うので宅地建物取引士の資格をまだ取得していない期間限定のアルバイトやパートに任せることは、まず考えられません。

 宅建試験に合格したいという理由で不動産会社に勤務することはお勧めしません。