建物内で発生した心理的瑕疵は、建物の取り壊し後も継続するか

以前に建っていた建物内で殺人事件が発生して住人が死亡したことを知らずに、その建物が建っていた土地を購入した買主は、売主に損害賠償を請求できるかという問題があります。建物内で発生した心理的瑕疵は、建物の取り壊し、および再建築後も継続するかという問題です。

事例を用いて説明します。

事例

 更地を購入した土地の買主が建物を建て、8年が経過しました。土地を購入する際には、売主および仲介した不動産会社からは心理的瑕疵がある旨の説明は一切ありませんでした。
 ところが、近隣の方から、この土地に建っていた住宅の住人が刃物で刺されて死亡したことを知りました。当時の新聞を確認したところ、新聞に当該殺人事件が掲載されていることを確認しました。
 買主は売主に損害賠償を請求できるでしょうか。

類似する事案において、大阪高判平18・12・19は、代金の5%相当額を損害額と認め、賠償責任を認めました。

殺人により人が死亡した事案は、自殺や事故死、自然死とは異なり、残虐性が高いために付近住民の間において長く記憶に残ることが多いと思われます。さらに、過去に新聞報道が行われていることから近隣の住民に限らず、当該土地に建物を建てて居住しているとの話題や指摘が人々によりなされ、この土地を買い受けた買主の耳に届き、不快感を覚え、居住には適さない土地である、すなわち契約不適合責任があると考えることもやむを得ないと考えられます。

自殺や事故死、自然死よりも残虐性が高いことから、更地にしたとしてもある程度は心理的瑕疵が残り、損害賠償を要することを認めた判例であると言えます。

この事例では殺人ですが、これが自殺であった場合は更地化により心理的瑕疵はほとんど消滅すると解することが可能かもしれません。ただし、このあたりに関する統一した学説および判例はまだありません。

報道が行われたか否か、事案が発生した場所が人の多い都心か、それとも閑散とした郊外なのか等より、判断は変わると思われます。

建物の内部で心理的瑕疵が発生しても、その態様が「殺人」等の残虐性が高いものでなければ、建物を取り壊すことにより心理的瑕疵はかなり小さくなるとの解釈が出来そうですが、ゼロにはならないでしょう。従って、「自殺」の場合には、建物を取り壊し、更地にして売却するとしても、売主には依然として告知義務があると言えます。

仲介をした不動産会社に対する責任追及は可能か
仲介を行う不動産会社には、物件に対する調査義務があります。しかし、売主に対する聴き取り調査を行い、さらに「売主は心理的瑕疵の存在を知らない」旨の陳述が記載されている告知書が提出されていれば、不動産会社は免責されます。

不動産会社にはそれ以上の調査義務はありません。公的な調査方法が提供されていないからです。個別の事件に関する情報は警察が保管していますが、開示されません。

売主において「心理的瑕疵の存在を知らない」との陳述があれば性善説に立ち、売主の陳述内容を信用して仲介を行えばよいとされています。このため、不動産会社が心理的瑕疵の存在を知らない場合は、責任を追及できないことになります。

もちろん、不動産会社が心理的瑕疵の存在を知りながら仲介した事実があれば、買主は不動産会社に損害賠償を請求することが可能です。