土地売買において重説記載の土地形状および境界位置がおかしい場合

都内で実際にあった事案
相談者(以下買主)は土地を購入することになり、売買契約の前に隣地との土地境界線の位置を確認しました。確認は隣地所有者と共に現地で行い、双方共に納得しました。

売買契約の当日に、売主側の不動産会社から重要事項説明書が提出されました。宅地建物取引士が内容を一通り説明し、土地の形状及び境界線の位置に関する説明をし始めましたが、重要事項説明書に記載されている土地の形状および境界線の位置が、買主が認識していた内容とかなり異なります。

このため、買主は重要事項説明書に記載されている内容は、自分と隣地所有者の双方が認識している内容とかなり異なることと、重要事項説明書に記載されている土地面積であれば売却価格も大きく変わるとして、このままでは契約の締結が出来ないと主張しました。

売買契約は、登記簿記載の面積で取引を行う、いわゆる公簿売買で行うことにしていました。この場合、多少の違いがある場合でも、売主及び買主は互いに許容する旨の特約を契約書に定めます。

しかし、土地の形状および面積の食い違いがあまりにも大きい上に境界線の位置がかなり異なります。さらに、このまま契約すると隣地所有者との紛争が避けられません。このため、買主は公簿売買ではなく実測売買にすることと、契約は測量の終了後にすること(契約の延期)を提案しました。

ところが、売主側の不動産会社は契約の延期を認めないと言い、買主側の不動産産会社の担当者もこの場で契約を済ませるように進言したとのことです。

買主は、契約の延期を強硬に主張しました。購入価格に影響するだけではなく、隣地所有者との紛争が避けられず、建設する建物の位置や大きさにも影響するからです。「何が何でも測量をするまで契約延期」を主張し、譲らなかったとのことです。

最終的には土地の形状及び境界の位置を再確認し、測量後に価格を再交渉した上で1か月半後に契約することで同意書を作成しました。

買主は、契約を延期させた行為が正しいかについて、私にセカンドオピニオンを求めてきました。私は、「買主としては全て正当な行為なので、一切心配はない」旨を話し、重要事項説明書の書き直し案が出来上がり次第、すぐに送付してもらうことと、面積変更に伴う売却価格の算出が正しく行われているかを確認するべきと進言しました。

売買契約は1か月半後に無事に成立し、決済後に買主が建物を建築しました。

あってはならないことであるが...
不動産会社の営業担当者には売上に関する厳しいノルマを課されていることが多いです。多くの営業担当は、ノルマを月別に設定されています。売買契約の延期はノルマに影響することから受け入れられないと考え、売買契約の即時締結を勧めたものと思われます。

売買契約をこのまま締結した場合、買主は大きな不利益を受けるところでした。重要事項説明書に記載されている土地面積は実際の面積よりも大きいため、このままでは土地の近隣相場価格よりも1千万円近く高い金額で購入するところでした。

売主側の不動産会社は老舗であり、40年以上前に件の土地およびその周辺の土地における借地権設定に関与したことがありました。そして、今回の事案が発生した原因は、この40年以上前に作成した土地図面を基にして重要事項説明書を作成したことでした。

借地権を設定した際の土地形状や面積を変更することなく売買されると勝手に思い込み、重要事項説明書及び売買契約書を作成したものと思われます。通常では全く考えられません。

怖いのは、取引に関わる2件の不動産会社が、契約の締結を速やかに済ませたいばかりに買主に対し、共に誤った進言をしたことです。

公簿売買では、土地の形状や面積が多少異なる場合でも売主および買主は許容する旨の特約を定めるので、問題は起きにくいです。しかし、誰の目から見ても明らかに酷い食い違いがある場合は、公簿売買の場合でも問題になることがあります。

買主側の不動産会社は何をしていたのでしょう。売主側の不動産業者が重要事項説明書および売買契約書を作成する場合は、契約前に下書きを買主側の不動産会社に送付してもらい、買主側の不動産会社で記載内容を確認し、問題の有無を確認しなければなりません。

買主がこの土地を購入した後、実際の土地の形状や面積が重要事項説明書および契約書に記載されている内容と大きく異なる場合、取引に関わった不動産会社は裁判所に提訴され、多額の損害賠償を請求されることがあります。

歩合制およびノルマが問題か
営業担当者の給与を歩合制にし、ノルマを設定することは多くの不動産会社で採用されています。しかし、今回の事案は歩合制やノルマが原因で、本来は延期するべき契約が延期することなく進められそうになった事案と言えます。

不動産会社経営者の監督責任および過失責任が問われ、提訴された際には不動産会社が敗訴することが容易に想定されます。多額の損害賠償を支払わなければいけなくなりますので、経営者においては本当に恐ろしい話です。

営業担当に歩合制やノルマを課すことは、経営者の視点に立った場合には必ずしも良い面ばかりではないと、改めて認識した次第です。