普通借家契約を定期借家契約に変更できるか

賃貸借契約には普通借家契約および定期借家契約があります。実務上の扱いですが、東京都区内の場合、普通借家契約における契約期間は住宅の場合2年、店舗・事務所の場合は3年として契約することが多いです。

普通借家契約
普通借家契約(普通建物賃貸借契約)の場合、更新時期が来た場合には賃借人から賃貸人に対し更新料を支払うことにより、契約を更新できます。そして普通借家契約の特徴として、賃借人の権利が極めて強いことが挙げられます。契約期間が満了して更新時期が到来した場合でも、正当事由がなければ賃貸人が契約更新を拒否することはできません。

借地借家法は、この正当事由として「賃貸人および賃借人相互間における信頼関係が破壊されたと認められる場合」を定めています。具体的には賃料の滞納が相当期間継続した場合、建物が朽廃しているが補修工事を行えないことから居住者の生命・身体の安全を図れない場合等が該当するとされます。

普通借家契約における賃貸人は、余程の事情がなければ賃借人を退去させることが出来ません。例えば夜中に泥酔して大声を出す性癖がある入居者、大音量で音楽を流す入居者、ゴミ出しの方法を守らない入居者がいる場合でも、それだけの理由では賃貸人が退去させることは認められていません。

退去させることが出来ないことから賃貸人が放置すると、善良な入居者は退去します。また、賃貸人は問題のある入居者を放置していることから精神的な苦痛を受けたとして賃借人から損害賠償を請求されることがあります。

普通借家契約では賃借人が合意しない限り、解約および更新拒絶は極めて困難です。

定期借家契約
定期借家契約(定期建物賃貸借契約)では契約前に予め定めた契約期間の経過により賃貸借契約が終了します。契約更新の概念はありません。契約期間が終了した際に、賃借人を物件に引き続き継続して居住させる場合には「更新」ではなく「再契約」となります。

再契約の際に、賃借人は賃貸人に礼金を支払い、不動産会社に仲介手数料を再度支払うことになります。

普通借家契約における更新と、定期借家契約における再契約とでは、後者の方が賃貸人および賃借人において負担になります。このため、実務としては再契約の際の礼金を免除する、仲介手数料を値引きする等を行うことにより、普通借家契約において更新をした際の支出額と大差が生じないように工夫しているところが多いです。

定期借家契約にした場合、賃借人が再契約を希望した場合でも賃貸人はこれを拒否することが出来ます。前述した質の良くない賃借人については契約期間の満了により退去させることが出来ます。これにより善良な入居者が退去することを防止できます。

また、海外赴任等の理由により自宅を貸す場合に定期借家契約とすることにより、海外赴任が終わり帰国した際に、国内の自宅を明け渡して貰えます。退去を求める場合、契約期間が満了していない場合は満了まで待つ必要があります。しかし、普通借家契約の場合には契約期間が満了しても賃借人が契約の更新を希望した場合には退去を求めることが認められません。自宅を一時的に貸し出す場合には賃貸人にとって有利な契約といえます。

定期借家契約を締結する際には、契約の際に別紙を用意して定期借家契約であること、更新がないことなどを説明しなければなりません。また、契約期間満了の1年前から6か月前迄の間に契約が終了する旨を通知しなければ、退去を要求できないことが定められています。

普通借家契約を定期借家契約に変更することは可能か
最初の普通借家契約が2000年3月1日より前に締結された場合は、変更できないとされています。それ以降に締結された賃貸借契約の場合は賃貸人および賃借人の双方が合意した上で普通借家契約を一旦解約し、定期借家契約を新たに締結することになります。

しかし、定期借家契約は普通借家契約よりも借主の権利が弱いことから、契約の切り替えを唐突に迫ると賃借人から拒絶されることがあります。賃借人には合意解約を拒否する権利がありますし、普通賃貸借契約を選択する権利があります。

このため、実務としては物件の売買が行われたことにより賃貸人が変わった場合、または管理会社を変更する際に、「全ての居住者の住環境を守るために定期借家契約への変更をお願いしたい。」と提案し、従来の普通借家契約を合意解約し、定期借家契約を契約することが一般的です。