地面師の手口-偽造した印鑑証明や住民票等の利用

地面師と偽造公文書
少し前に、私が遭遇した地面師に関する内容を投稿しましたが、この地面師は手付金を騙し取ることだけを考える輩であり、偽造された公文書が使用されることはありませんでした。

決済を経て最終的な所有権登記移転を行わせ、不動産代金の全額を騙し取るには各種公文書の偽造が必要です。品川区五反田の土地に関し、積水ハウスが地面師に騙された事件では、所有権移転登記に必要な書類が偽造され、法務局に提出されたと報道されています。この事件では法務局の担当者が各種書類の偽造を見抜いたため、所有権移転登記が行われなかったとのことです。

所有権移転登記には運転免許証、パスポートなどの身分証明書、印鑑証明書、固定資産評価証明等の書類が必要ですが、これらの書類は公文書であり、様々な偽造防止措置が執られていることから素人が容易に偽造できるものではありません。

しかし、偽造された書類が法務局に提出される事件は複数発生しており、実際に所有権移転登記が行われてしまった例があります(提出された売主の印鑑証明書が偽造されたものであることを理由として不動産売買契約の成立を否定し、所有権移転登記などを抹消した判例:東京地判平27・6・16)。

また、不動産に関するある漫画に、書類の偽造を行う印刷所の存在が描かれていました。このような印刷所が日本国内に本当に実在するのかはわかりません。

後述しますが、業として公文書の偽造を行っていることが発覚した場合には最大で懲役10年の刑が言い渡されます。かなりの重罪なので、公文書の偽造を業として日本国内で行うことは割に合わなくなっています。このため、このような印刷所の大半は外国にあるものと思われます。

2019年2月20日の日本経済新聞記事(詳細は会員のみ参照可)は、証明書偽造サイトが氾濫していることについて取り上げています。不動産売買契約において、手付金だけではなく不動産代金を丸ごと奪い取ることを考える地面師は、このようなサイトを利用して書類を偽造し、犯罪を行っているものと思われます。

不動産取引を行う不動産会社および司法書士は、偽造書類を見破る方法を考え、防衛策を検討しなければならなくなっています。

公文書偽造罪、偽造公文書使用罪
印鑑証明や住民票等の偽造は公文書偽造罪(刑法第155条第1項)に該当する犯罪です。偽造した印鑑証明等を使用した場合は偽造公文書使用罪(刑法第158条第1項)に問われます。いずれの犯罪も1年以上10年以下の懲役刑により処断されます。

偽造公文書使用罪については刑法第158条第2項により未遂罪も処罰されます。つまり、不動産売買または不動産賃貸の際に、偽造した書類を不動産会社に提出した場合は、その事実だけで処罰対象になります。

偽造された印鑑証明や住民票等の公文書が私の会社に提出されたことはありませんが、提出された場合には未遂であっても通報することになります。他の不動産会社でも同じだと思います。コンビニ・スーパー等における万引き事犯よりもはるかに罪深い行為であるからです。