不動産ポータルサイトの普及により変わったこと

 平成20年頃、アットホーム等の不動産ポータルサイトを多くの方が利用し始めました。数多くの不動産情報を掲載しており、不動産会社に行かなくても物件情報を容易に入手できるようになりました。

 ポータルサイトが登場する前は、不動産を購入した方および借りたい方は不動産会社に出向き、物件の紹介を受けていました。お客様の希望条件に合致する物件を不動産会社が選び出し、内覧の際は不動産会社の車に乗っていただいていました。1日に数件程度の物件を回り、主にその中で気に入った物件を決めていただいく方法が主流でした。

 ポータルサイトが登場してからは、営業方法が大きく変わりました。不動産を購入したい方はポータルサイトに物件情報を掲出した売主または元付業者と直接交渉し、購入できるようになりました。借りたい方も貸主または元付業者と直接交渉して借りられるようになりました。

 内覧の際に不動産会社が車両を用意して移動することは少なくなりました。東京都やその近郊では、売主(または貸主)又は元付業者と現地待ち合わせで行うことが多いです。車両を待機させ、他の物件を直ちに案内できる旨をお客様に伝えても、断わられることが多いです。

買い取り、リフォーム再販業者が増えた

 大きな変化であり、「ポータルサイトの登場により不動産仲介業は消滅する。」という風評が不動産業界に大きく広まりました。平成20年頃、不動産業者の大半は「今後は元付業者、売主業者、貸主業者しか残らない。世間の要請なので仕方ない。」と考えました。

 このような背景があり、主に中小・零細の不動産仲介業者が「売主」になることを選択しました。この頃から不動産買い取り、リフォーム再販を始めた不動産会社(売買業)が急激に増えました。

不動産会社の広告宣伝費が急増

 不動産業に携わらない方にはあまり知られていませんが、ポータルサイトの掲載費はかなり高額です。「不動産物件に関する情報を数多く掲載すれば問合せや来店客が増えます。」という宣伝文句で利用のお誘いがあります。しかし、ポータルサイトに数多く掲載すると広告宣伝費が際限なく増えます。

 掲載費用は掲載する物件の数、クリック数、掲載日数等により定められます。料金体系はポータルサイト運営各社でまちまちですが、かなり高額です。仲介手数料収入の7~8割以上を広告費に充当し、その7~9割をポータルサイト運営会社に支払っている不動産会社が数多くあります。

不動産の相場が可視化された

 数多くの不動産がWEBサイトに掲載されることにより、不動産業界に携わらない方にも相場がわかるようになりました。このため、不動産を大至急売却したいなどの特別な事情がある場合を除き、相場を逸脱した価格で取引されることが減りました。

不動産業者が自社をアピールしにくくなった

 最近、Google検索では、複数のWEBサイトに掲載されている情報を自社サイトに掲載しても検索順位が上がらないようです。ポータルサイトに不動産情報が多数掲載されているため、自社サイトに物件情報を数多く掲載しても検索されにくくなっています。つまり、自社を宣伝するために物件情報を自社サイトに数多く掲載しても検索順位はそれ程アップしません。

 ポータルサイトの登場により、不動産情報を数多く自社のWEBサイトに掲載しても、自社のアピールが難しくなったと言えます。

内緒の売却が困難になった

 不動産ポータルサイトは誰でも自由に閲覧できます。このため、売物件情報をポータルサイトに掲載すると、タブレット端末等を持った方が物件の周囲を歩き回る事案が急増しました。

 現況居住中の戸建住宅が売られている場合、住人を呼び出し、その場での内見を求める方がいらっしゃいます。大声で価格交渉を始めようとする方もいらっしゃいます。不動産会社を通さず、自分が直接交渉すれば安値を引き出せると思っているようです。

 売却依頼を受けた物件をポータルサイトに掲載したところ、売主様を不快にさせる訪問者が現れた事案が数多くあります。不動産会社に対するクレームになり、対応を誤ると売却依頼を取り消されることがあります。

 特に都内で不動産を売却したい方の多くは、内緒での売却を希望しています。中でも現況居住中の売物件において、情報の秘匿を求められることが多いです。理由の多くは、近所の方に知られることなく転居したいと考えているからです。しかし、玄関前で価格交渉を始められると売り出し中であることを近所に知られ、内緒に出来なくなります。

 ちなみに収益用不動産は以前から内緒の売却が主流です。理由はいくつかあります。売り出し中であることを入居者が知った場合に入居者が不安になり、退去する方が生じる恐れがあります。また、売主が法人である場合、当該法人の経営状態が良くないのではないかとの疑念を外部から抱かれる恐れがあります。

 ポータルサイトはあまりにも氾濫しすぎました。今後、ポータルサイトの掲載対象は主に賃貸物件、現況空家の売物件、更地になるのではないかと考えています。現況居住中の売物件、および都心の収益用不動産(1棟マンション・アパート・事業用ビル)の掲載は少なくなるかもしれません。

 「不動産会社を訪問し、物件を紹介してもらう」という従来の手法が復活する可能性は大いにあります。