12月10日過ぎに「年末迄に不動産を売りたい」は無理

 12月10日を過ぎたあたりから、例年にはない異様な問合せが何件もありました。いずれも「法人所有の不動産を即刻売却したい。御社が現金一括で買い取って欲しい。時間がないので売買仲介は不可。」というものです。

 おそらく、金融機関から受けた融資の返済期限が迫っているのでしょう。「年末までに返済できない場合は破産を申し立てる」等と言われた可能性が高いです。

 新型コロナウイルス感染症が蔓延し、大半の企業が機能不全に陥りました。多くの金融機関が特例で融資しましたが、今年になり、融資した資金の返済期限が到来したところが多くあります。

 法令により、従業員の解雇には厳しい要件が求められます。会社の資金繰りが悪化した場合でも、要件を満たさない限り、従業員を解雇することはできません。融資を受けた資金の多くは従業員の給与や店舗・事務所の賃料として支払われたものと考えられます。

 2023年になり、コロナ禍がようやく沈静化する兆候が現れました。しかし、2023年12月現在ではコロナ禍になる以前のレベルまで景気が回復したとは言えない状況です。売上も利益も思うように出ないことから、融資を受けた資金を返済できない企業が増加しています。

12月10日過ぎに「年末までの決済」を求められても

 12月10日過ぎに倒産を回避する目的で年末までに社有不動産を売却したいとしても、ほぼ無理に近いです。

 前述したとおり、筆者は「現金一括により、御社で買い取って欲しい。」と複数の方から懇願されました。しかし、厳密な査定や共有者・担保権の調査、物件調査が間に合いませんし、何億円もの資金を現金で用意できません。このため、全てお断りさせていただくしかありませんでした。

 「不動産会社であれば、何億円もの買い取り資金を常に銀行に預けている」と勘違いをされている方がとても多いです。しかし、買い取り資金が必要な場合はその都度金融機関から融資を受け、調達している不動産会社が大半です。

 資金に余裕があると言われる大手の不動産会社でも、多額の現金を金融機関に預けていることは稀です。収益用不動産や株式、その他の投資資金として運用していることがほとんどです。「所有する不動産を即刻買い取って欲しい」と依頼されても、応じられる不動産会社はほとんどないのが実情です。

 年末までに不動産を買い取ってもらえなかった企業は破産を申し立てられ、倒産する恐れがあります。このような企業が急増している感があります。残念ながら、コロナ禍の長期化による経済の悪化はこれからが本番になるのかもしれません。