「入居者を追い出して欲しい」との相談は対応不能

 「賃貸アパートの入居者を追い出して欲しい」というオーナー様からの相談がたまにあります。また、賃借人がどのような行為を行った際に賃貸借契約を解約できるかについて、よく質問されます。

 意外に知らない方が多いのですが、不動産会社には入居者を追い出す権限がありません。「力ずくで構わないので追い出して欲しい」と頼まれることがあります。しかし、暴力を用いて追い出すことは違法行為(自力救済禁止の法理)であり、入居者が負傷した場合は暴行罪や傷害罪等に問われます。

 また、暴力行為は宅地建物取引業法が禁止しています。違反した不動産会社は事務停止処分になり、悪質な場合は宅地建物取引業免許が取り消されます。このため、「入居者を追い出して欲しい」と頼まれても応じない不動産会社が大半と思われます。(補足:あくまでも東京都内の話です。)

 後述しますが、強制力を用いて退去を実現できるのは地方裁判所だけです。

賃貸借契約解約の要件

 賃貸アパートやマンションの建て替え、大規模改修等の際に、立退料の支払を前提として退去に向けた交渉を行うことがあります。賃借人が立退料の金額に満足しない場合は、交渉を弁護士に任せ、協議するのが通常です。立退料の金額が確定して賃借人が退去に同意した場合、賃貸借契約は賃貸人および賃借人の双方による合意解約になります。

 退去に向けた交渉を弁護士以外の者が行うことは、いわゆる非弁行為であり弁護士法に違反します。不動産会社が弁護士の手を借りずにこの交渉を行うことは認められていません。

 その他に、賃借人が何らかの問題を発生させているために賃貸借契約を解約し、退去を求める場合があります。ただし、賃貸借契約は「賃貸人および賃借人における相互の信頼関係が破壊されたとき」と言えなければ解約できません。借地借家法がそのように定めています。

 以下の場合は「相互の信頼関係が破壊された」と言え、賃貸借契約を賃貸人から解約できます。ただし、賃借人が納得しない場合は賃貸借契約を解約した上で明け渡し請求訴訟の提起が必要になることがあります。

①賃借人が家賃を3か月以上滞納し続けており、自主的な退去を求めても応じない。
②第三者に無断転貸を行った。
(例:若夫婦に貸したはずなのに、1か月もしないうちに入居者が別人に入れ替わった。)
③賃貸借契約の特約で事務所としての利用を認めていないのに、入居者が事務所として利用し始めた。
④犯罪の拠点として利用された。
(例:特殊詐欺、賭博場)
⑤賃貸借契約の特約でペット飼育を禁止しているのに賃借人が犬や猫を飼育し始めた。

 賃貸人が賃貸借契約を解約しても、賃借人が明け渡しに応じないことがよくあります。明け渡しを求める正当事由があると思われる場合は、明け渡し請求訴訟を提起します。この場合は弁護士に依頼し、裁判手続を進めます。

 明け渡し請求を認める判決が得られたら、これを債務名義として強制執行の申し立てを行います。最終的には地方裁判所が実施する強制執行により賃借人を退去させます。

 賃貸人は裁判費用を賃借人に請求できます。しかし、ほとんどの場合に賃借人は無資力です。したがって、賃貸人が裁判費用を負担しなければならないことがよくあります。

 強制執行まで行うと、裁判費用がかなり高額になります。このため、不動産会社に「入居者を力ずくで追い出して欲しい。」と依頼される方がいらっしゃいます。しかし、東京では無理筋な話であり、このような要望に応じる不動産会社は少ないと思われます。

※この投稿が年内における最後の投稿になります。良い年をお迎えください。