賃貸物件のオーナー宛に賃借人の敷金差し押さえの通知が届いた場合

コロナ禍の影響により、今後は自動車購入ローンの返済やクレジットカード利用額の支払が滞る方が増えてきます。賃借人がクレジットカードや自動車購入ローンの返済を滞納した場合、金融機関等から、賃借人の敷金を差し押さえる(または仮差し押さえ)旨の通知がオーナー様宛に届くことがあります。

「この問題は賃借人と金融機関等との間における問題なので無視すれればよい。」とお考えになられるオーナーが多いと思います。しかし、オーナーは「心の準備」をしておく必要があります。

敷金差し押さえの通知は有効か

ご承知の通り、敷金とは賃借人が居住している間に、建物に損傷(自然的損耗を除く)を発生させた場合の修繕費を担保する預かり金です。また、不動産業界の慣習として、賃料の滞納が発生した際の未納分を担保するものとして扱われています。

敷金は預かり金なので、差し押さえの対象にはならないように思えます。しかし、結論から申し上げると、この差し押さえは「停止条件付き差し押さえ」として有効です。

賃貸借契約が解約されて鍵が返還された場合、オーナーは建物の損耗を修繕する費用(自然的損耗を除く)および賃料の滞納額を控除した残金を賃借人に返還することになります。差し押さえの対象は、この残金になります。

賃貸借契約が解約された場合、この残金は賃借人がオーナーに対して有する債権(停止条件付き債権)に変わりますので、差し押さえはこの債権に対するものとして有効です。よって、敷金差し押さえの通知は有効です。

しかし、金融機関等の担当者がオーナーに対し、差し押さえを理由として、直ちに敷金全額の送金を求めた場合にはお断りして構いません。資金の送金を要求できるのは、賃借人の退去後かつ差し押さえが有効であるとする裁判所の判決確定後になります。

差し押さえの通知が届いた後に起こること

容易に想定できるのは、賃料の滞納がこれから始まるか、既に始まっている場合はその滞納が続くことです。オーナーとしては賃借人における経済的状況を確認し、その原因により賃料の減額や退去を念頭に置いて検討する必要があります。

まず第一に行うことは、賃借人に事情を確認することです。コロナ禍による収入激減が原因であれば、期限を設定した上で賃料を減額してあげることにより、状況が改善しないかを検討します。

改善する見通しが立たないようであれば、最終的には明け渡しを求めるしかないと思われます。差し押さえを止める方法ですが、自己破産や個人再生手続きなどの手続きによるしか方法がない場合が多くあります。

賃借人に「敷金から賃料を充当したい」と言われるかもしれませんが、これに応じる必要はありません。充当できるのは退去時における精算の際だけです。それに、最近多く見られる敷金1か月の物件では建物の損耗に対する修繕費を控除してしまうと、賃料に充当できる金額には足りませんので、充当は無理という結論になります。

件の賃借人の退去が決定した場合

賃貸借契約が解約された場合、オーナーは、預かっている敷金から部屋の損耗を修繕する費用(自然損耗を除く)と、滞納している賃料がある場合はその賃料相当額を控除し、その残額を賃借人に返還します。

しかし、今回の事案のように、敷金に対する差し押さえをされている場合は、その差し押さえが有効である旨の通知(裁判所が、差し押さえが有効である旨を確定判決として下した旨の通知)が裁判所から届いている場合に限り、賃借人ではなく、差し押さえをした金融機関等に支払う必要があります。賃借人に返還してはいけません。