人手不足が深刻、管理人のなり手がいない

 最近、いわゆる「人手不足」の報道が増えています。特に飲食業、建設業、運輸業における人手不足は深刻です。消費税の税率アップ、円安、物価高のため、給料が安い業種で働く方がいなくなっています。

 賃金を上げれば解決できるように思えます。しかし、コロナ禍の長期化により大きなダメージを受けた企業が多く、賃金を容易に上げられる状況ではありません。

 コロナ禍による企業業績悪化のため、多くの企業が金融機関から緊急融資を受けました。ところが多くの場合に融資期間が2年と定められている状況です。「2年が経過した」として、金融機関から融資した資金の返済を求められ、倒産・廃業する企業が急増しています。

 このような状況なので、従業員の賃金がなかなか上がらない状況に陥っています。

管理人がいなくなると、次の管理人がみつからない

 マンションの管理人が退職すると次の管理人が見つからず、頭を抱えているところが増えています。賃貸マンション、分譲マンションのいずれも管理人のなり手がいなくなっています。

 意外に知られていないのですが、管理人の仕事は重労働です。主な仕事内容は建物の共用部(廊下、階段、玄関エントランス等)における清掃、点検、見回りです。外構部がある場合は植栽に散水します。

 マンションのゴミ置き場が公共のゴミ集積場より離れている場合、管理人が全てのゴミを運搬するマンションがあります。エレベーターがない場合、上層階に入居している高齢者の部屋から1階まで、管理人がゴミを運ぶところがあります。

 玄関入り口の近くに入居者共用のトイレやペット用のトイレがあるマンションでは、管理人がトイレ掃除を行います。

 共用部の管理も重要な仕事です。入居者からオートロックやエレベーターに不具合がある旨の報告があった際は、管理人が連絡先とされていることが多いです。管理人は状況を確認した後、必要に応じ管理組合、管理会社、保守会社等に連絡します。

 この他にも消防設備点検、排水管の高圧洗浄の立ち会いも管理人が行うことが多いです。

 入居者同士のトラブル、急病人の発生も管理人が対応しなければならないことがあります。最近は片言の日本語しか話せない外国人が入居していることがよくあります。日本語の理解が不十分な方から状況を聴き出し、対応することは多大な労力を要します。管理人の業務は世間一般に考えられている内容よりハードです。

 これまでは主に企業を定年退職した方を管理人として迎え入れてきました。しかし、定年を過ぎても優秀な方は雇用を延長され、契約社員または嘱託として企業に残っています。今までのように定年退職した方を管理人として雇える社会状況ではなくなりました。

 また、管理人の給与水準がかなり低いことも「マンションの管理人」という仕事が選択されにくい理由の一つです。管理人のなり手がないという問題は今後益々深刻になります。

管理人がいなくなると何が起きるか

 分譲マンション、賃貸マンションのいずれでも管理人がいなくなると建物全体が荒れ放題になり、マンションの価値が大きく下落します。

 内部が薄汚れている荒れたマンションに入居する方はいませんので、賃貸マンションの場合は家賃を切り下げることになります。分譲マンションの場合は査定価格が下がります。建物の状態が良くないと購入希望者に対する住宅ローンが承認されにくくなるので売却が難しくなります。

 多くの場合、ゴミに関する大きな問題が発生します。ゴミ出しが収集日以外に行われる、ゴミが分別されない等が常態化します。不分別のゴミは収集車から回収を拒否されます。入居者が引き取らないと回収を拒まれたゴミ袋が次第に増え、山積みになります。さらに粗大ゴミが共用部である外構部や屋上に持ち込まれ、放置される状況になりがちです。

 全体的に入居者がだらしなくなり、住環境の悪化に伴い退去する方が増えます。やがてマンションがスラム化することになります。

分譲マンションでは管理人の給与を上げるために管理費の値上げが避けられない

 管理人を置かずにマンションを運営することはマンションという不動産の価値を大きく下落させることにつながります。管理人の給与水準が上がらなければ管理人不足は解消されない以上、管理費の値上げはやむを得ないと考えられます。