不動産売買契約締結をオンラインで行う際の問題点

 ご承知の通り、新型コロナウイルス感染症がなかなか終息しないことから、不動産取引を非対面で実施することに対する要望が増えています。

 昨日および一昨日の投稿では、不動産の内見をオンラインで実施した際に発生する問題について書きました。数多くある物件をスクリーニングする際にオンライン内見を利用することは有効です。しかし、最終的に物件を決める段階になったら実地に赴き、自分の目で直接内見することをお勧めする旨を書きました。

 不動産取引、特に売買契約の場合は、購入する物件が決まった後に行う項目が数多くあります。本日は、不動産売買を購入することに決めてから、実際に所有権が移転して入居できるまでの過程を非対面で行うことがどこまで可能なのかについて書きます。

 その前に、買主が購入する不動産を決めた後に売買契約を締結し、最終的に物件が引き渡されるまでのプロセスと、オンライン化する際に発生する諸問題について書きます。

買主において購入する不動産を決めた後、売買契約が成立する迄のプロセス
 東京及びその近郊で行われるプロセスの概要を書きます。東京以外では多少異なることがあります。

1.買付証明書の提出
 物件の購入を決めた買主は、不動産会社(または売主)に買付証明書を提出します。この書類には購入する物件の所在地、種類、購入希望金額を記載しますが、引渡し方法および時期に関する要望がある場合はそれらを記入することがあります。
 通常、買付証明書には購入希望者が署名して捺印しますが、書式および様式は法律で定められていません。不動産会社により、署名があれば捺印がなくても有効と扱われることがあります。

 提出方法は持参、郵送、FAXのいずれでも有効です。メールで送る場合は、買付証明書をPDF形式ファイルに変換した上で添付ファイルとして送ります。

※オンラインで実施する際に発生する問題はありません。

2.重要事項説明
 買付証明書の記載内容について売主が承諾した場合、不動産会社が当該物件の売買契約にかかる重要事項説明を行います。
 重要事項説明の方法、および説明内容は宅地建物取引業法第35条第1項が定めており、国家資格者である宅地建物取引士が宅地建物取引士証を提示した上で買主に説明し、記名押印をします。

 重要事項説明の際には売買契約書の案を提示し、現在の所有者が誰であるか、登記簿に記載されている内容、引き渡される設備の内容、現況について売主に照会した内容、物件所在地またはその近隣におけるハザードマップ等を提示しながら行います。

 重要事項説明書は冊子として作成されることが通常であり、売主、買主、仲介した不動産会社、説明した宅地建物取引士が綴じ目に割り印をします。また、重要事項説明を受けた証明として、買主が署名して押印することが通常です。

※書類を事前に送付しておけば、オンラインによる重要事項説明は可能です。ただし、参加者の全てが良好な通信環境を備えており、カメラで宅地建物取引士証を確認し、音声が聞き取れることが確認できることが、オンラインで行うために必要な条件とされています。

3.売買契約の締結
 売買契約書に売主、買主、仲介した不動産会社の各々が署名し、捺印します。さらに売買の目的となる不動産の価格に応じた収入印紙を貼付し、売主および買主の双方が収入印紙に消印をします。

 売買契約書は重要事項説明書と同様に、冊子として作成されることが通常です。通常は売主、買主、仲介した不動産会社、説明した宅地建物取引士が綴じ目に割り印をします。

 買主は売主に手付金を支払い、売主は領収書を買主に渡します。手付金の納付は現金または預金小切手で行われるのが通常です。

※契約書(案)を事前に送付し、売主、買主、不動産会社が各々の状況を確認しながら行うのであれば、契約締結自体はオンラインでも可能です。

 手付金の納付と領収書の手渡しをどうするかという問題がありますが、買主が売主に対し、決済日までにあらかじめ手付金を送金し、領収書は後日に郵送することで対応できます。

 4.金銭消費貸借契約の締結と実行(住宅用ローンを利用する場合)
 ローンの利用を申し込んでいる金融機関と買主との間で金銭消費貸借契約を締結します。融資を受けた購入資金は、決済を金融機関の支店内で行う際にはその場で渡されます。

 ノンバンクを利用する際、または決済の場所が金融機関の支店ではない場合は、決済の前日または当日の朝に融資された金額を買主の預金口座に振り込むことがあります。この場合は買主が決済日に現金を持参するか、売主の預金口座にあらかじめ送金しま。

5.決済
 通常は、平日の午前中に行われます。売主に残代金(販売価格から手付金を差し引いた金額)が支払われた、または残代金が売主の預金口座に振り込まれたことが確認でき次第、売主が所有権移転登記に必要な書類を司法書士に手渡します。

 買主か融資を受けて不動産を購入する場合、司法書士は金融機関が指定します。融資を利用しない場合は買主が指名します。

 司法書士は、売主および買主の身分を確認します。その後、売主が提出する印鑑証明、その他の書類に不備がないか、司法書士が法務局に提出する委任状に押印されている売主の印鑑が実印であるかを確認した上で、所有権移転登記に必要書類を法務局に提出します。

 売主は、物件の鍵を買主に渡し、一連の作業を終了します。

※オンラインで行う際の問題として、売主が残金を受領することと、所有権登記および鍵の引渡が同時履行の関係にあることが問題になります。

 また、司法書士が取引に関わります。対応していただく司法書士の先生がオンラインによる契約に精通しているかも問題になります。

重要事項説明から引渡しまでの過程の全てをオンラインで行う方法は確立されていない
 最大の問題は決済です。販売価格から手付金を差し引いた金額が買主から売主に支払われることと、売主が司法書士に登記必要書類を渡し、さらに買主に鍵を渡すことが同時履行の関係にあることが問題になります。

 また、買主が住宅ローン等の融資を受けて物件を購入する際には、金融機関の担当者が決済に立ち会うことを希望することがあります。この場合にどのように対応するかが問題となります。

 全てをオンラインで行うための方法については信託銀行の預金口座に購入資金を集めておくとか、署名捺印には電子署名を利用する等の方法が検討されています。

 しかし、現時点では全ての過程をオンラインで対応する為の方法は確立されていないと言えます。