競売物件、立ち退きの強制執行とペット

コロナ禍であることから、特に大都市では日常の業務を在宅勤務で行うことが推奨されています。

日常の業務を在宅勤務で行えるのであれば、家賃が高額な都心のマンションなどに居住する必要はありません。郊外の戸建住宅に転居すれば広い室内を確保できますし、何よりも家賃が安いです。このため、大都市からそれ程離れていない郊外の賃貸戸建住宅に対する引き合いが増えています。

郊外の賃貸戸建住宅に対する需要が増えてきていることから、郊外の中古戸建住宅を購入し、賃借人を募集して収益物件として賃貸経営を始める方が増えています。このため、大都心に近く、交通の便が良好な戸建住宅は徐々に値上がりしています。

戸建住宅を安く購入したいということで、競売で購入することを考える方が増えています。不動産を競売で購入する場合の注意点は数多くありますが、あまり知られていないと思われる注意点として、ペットが残置物として残されていた場合の取り扱いがあります。

建物が競売で落札された場合
不動産を競売で購入した後、債務者・所有者が居住している場合は明け渡しを求めることになります。しかし、債務者・所有者の中には競売にかけられた経緯について納得していない方がいます。立ち退きに向けた交渉をしたくても一方的に無視し、長期間居座る方が多くいます。

交渉で立ち退かない場合は、裁判所に引渡命令の発令を求める裁判を提起し、強制執行の申し立てを行います。強制執行(断行)の当日、屋内に債務者・所有者、居住者がいる場合は、執行官の指示により執行補助者が屋外に連れ出します。

残置されている家財は、裁判所が指定する執行補助者が手配する倉庫に運びます。屋内にある家財の所有権は依然として債務者・所有者にありますので、倉庫へ移動させる措置が執られます。倉庫に移動した家財は約1か月保管され、その間に債務者・所有者が引き取らない場合は動産競売が実施されます。通常は、執行官の指示により競売で物件を購入した買受人が極めて低廉な価格で買い取り、その後に廃棄することになります。

強制執行の現場に動物が取り残されていた場合
問題なのは、ペットが屋内に取り残されている場合です。生きたまま倉庫に搬入することは出来ません。ケージに入れる際も、おとなしくしてくれるとは限りません。特に猫の場合は猛烈に暴れだし、遠くに逃げてしまうことがあります。

室内に残置されている動物は、執行官の判断により強制執行が行われている現場において、そのまま即時競売になります。最終的には競売で不動産を購入した買受人が極めて低廉な価格で買い取り、その動物の所有権を買受人が取得します。

ペットを動産競売で買い取った後
これが実に厄介です。少し前迄は、物件の所在地を管轄する保健所に持ち込み、処分することが通常でした。しかし、近年では動物愛護法の趣旨に鑑み、強制執行の際に室内に取り残された動物については、ほとんどの保健所において引き取らないことにされています。

強制執行の執行補助業者の方に話をうかがったことがありますが、残置されているペットを保健所が引き取らないことを知らない買受人が多いとのことです。この執行補助業者では無償で引き取り、従業員が新しい飼い主になり、自宅で世話をしているとのことです。従業員一人当たりの飼育頭数は増える一方で、従業員が引き取れない大型犬の何頭かは会社事務所の番犬にしているとのことです。里親募集を年中行っているものの、ペットをこれ以上引き受けることは無理とのことでした。

規模が小さい執行補助業者では、動物を引き取れないのが通常であると思います。競売で不動産を購入した場合、残置されているペットの所有者は不動産の買受人になりますので、ペットの後始末は買受人が行うしかありません。

ペットが残置されている競売不動産を購入した場合において、債務者・所有者(元の飼い主)がペットを引き取らない(ペットの所有権は不動産の購入者に移転していますので、元の飼い主に再び移転することになります)場合は、そのペットを不動産の購入者が自ら飼育するか、里親を探すしかありません。競売の際に裁判所が発行する現況調査報告書にペットがいる旨が記載されている物件では、買い受けた際にそのペットを引き取る覚悟が必要かもしれません。引き取れない方は、ペットを飼育していない物件のみに入札することをお勧めします。