住宅ローン特約を利用して売買契約を解除する際の注意点

自己居住用の住宅を購入する際は、大半の方が住宅ローンを利用します。

自宅用途の住宅を購入する売買契約の締結後、金融機関が審査により住宅ローンの成立を否認することがあります。金融機関によりローン成立が否決された場合、売買契約を解除でき、仲介手数料も不要になることを内容とする特約をローン特約と言います。この言葉については既にご存じの方が多いと思います。

自己居住用の住宅を購入する際は、売買契約にローン特約を設けるのが通常です。

このローン特約ですが、利用するタイプを選択する必要があります。また、ローン特約を利用して売買契約を解除する際に、方法を誤ると手付金の放棄だけでは済まず、違約金および仲介手数料を請求されることがありますので注意が必要です。

違約金は物件価格の2割と定められていることが多く、かなり高額です。実務では手付金との差額を追加で徴収されます。

仲介手数料は、売買契約が成立していることから請求の根拠があります。契約締結後に買主の一方的な事情による解約と見做された場合は、全額を請求されます。

住宅ローンを利用する際は、売買契約書に融資の申込先となる金融機関名、借り入れ金額、融資承認予定日、融資未承認の場合の契約解除期限を記載します。ローン特約には解除条件型と解除権留保型とがあります。

解除条件型
金融機関において融資の全額または一部を否決した、または金融機関が融資の可否を契約解除期限までに回答しなかった場合に売買契約は自動的に白紙になります。買主が売主に支払った手付金は無条件で返金され、不動産業者に仲介手数料を支払う必要はなくなります。

ローン特約を利用した売買契約解除を行う際は、買主から売買契約の解除を意思表示する必要はありません。後述しますが、この点が「解除権留保型」と異なります。

解除条件型は、不動産業者が買主に対して金融機関を斡旋する際に利用されます。

解除権留保型
別名「買主自主ローン」と呼ばれます。買主が不動産業者による斡旋を受けることなく、自ら金融機関を選択して融資を申し込む場合に利用されます。通常、解除権留保型を選択してローン特約の適用を受けるためには、買主は売主に対し、融資を申し込む金融機関に提出する書類(の写し)を提出することが必要です。

ローン特約を利用して売買契約を解除できる要件は「金融機関に融資の申し込みを行ったが、融資の全部または一部が否認されたこと」および「融資を申し込む金融機関に提出する書類(の写し)が、買主から売主に提出されていること」です。そして解除権留保型の場合、買主が売買契約を解除しないと、ローン特約の利用は認められないので要注意です。

買主が、契約解除期限までにどこの金融機関にも融資の申し込みをしない、または融資の全部または一部を否決されたにもかかわらず、買主が契約解除期限までに売買契約解除の意思表示をしない場合にはローン特約は適用されません。手付金が返還されないだけではなく、違約金および仲介手数料を請求されます。

契約解除期限が過ぎ、違約金や仲介手数料の請求書が届いてから「融資は否決されたのだからローン特約が適用されるはずだ。」などと主張しても後の祭りです。融資が承認されず、他の金融機関でも融資を承認してもらえる見込みがない場合は、契約解除期限の前に売買契約解除の意思表示をするべきです。

また、「融資が承認されたか否かを問わず、契約解除期限前であればローン特約を利用して売買契約を解除できる」と思われている方が多くいらっしゃいますが、誤りです。

申し込み条件の通りに融資が承認されたにもかかわらず、「よく考えたら毎月の返済額が高額」とか、「融資の申し込み後、他の銀行よりも利率が高いことがわかった」等の理由により売買契約を解約する際は、ローン特約の適用を受けられません。手付金の放棄だけでは済まず、違約金および仲介手数料を請求されます。

また、売買契約を解約する際には「○○銀行に融資の申し込みをしたが承認されなかった。売買契約書○○条○○項により、売買契約を解除する。」等、融資が承認されなかった事実と売買契約解除の意思表示のみを記載した書面を作成し、内容証明郵便を利用して買主から売主に直接送付することをお勧めします。ちなみに仲介を行う不動産業者に書類を渡すだけでは売主への転送を忘れてしまい、違約金等を請求されることがあります。

書類の書き方に自信が無い場合は、仲介を担当する不動産業者に勤務する宅地建物取引士、または弁護士・司法書士に相談することをお勧めします。

書類の到着が1日遅れただけでもローン特約の適用が認められないことから、違約金支払いの要否について訴訟沙汰になることがよくあります。

ただし、「金融機関の審査結果判明が契約解除期限の数日先になるが、確実に判明する」等の特段の事情がある場合は売主および買主の間で協議し、契約解除期限の到来前に「売買契約の内容変更に関する同意書」等を作成することにより売買契約解除期限の延長が可能になります。