賃借人が行方不明になった際に、連帯保証人はどのように対応するべきか

2020年12月8日

自分が連帯保証人を引き受けている賃借人が突然行方不明になることがあります。親しくしていたのに行方不明になったことから気に掛けていたところ、オーナー(賃貸人)から滞納している賃料の支払、および退去に向けた話を持ちかけられることがあります。

勤め先や賃借人の親族に連絡しても誰も心当たりがなく、周囲の誰にも行き先を告げずに行方がわからなくなる事案はしばしば発生します。

家賃の入金がないことからオーナーが異変に気づき、室内で死亡しているかもしれないということで警察官を伴い合鍵で入室したものの、部屋には誰もおらず、行き先を示すものが何もないということがあります。

この状況が発生してから1~2か月後に、オーナーが連帯保証人に滞納している賃料の支払および部屋の明け渡しを求めてくることがあります。このような場合、連帯保証人はどのように対応するべきでしょうか。

1.オーナーと仲違いしてはいけない
賃借人の行方を知りたいということについては、オーナーと連帯保証人とでは食い違うところはありません。行方が判明することにより、被害を最小限に抑えられる可能性が高くなります。

オーナーから滞納賃料等を請求されたとしても、連帯保証人はオーナーと仲違いするべきではありません。オーナーの中には「滞納家賃を今すぐに払え。荷物を引き取れ。」等と激昂される方がたまにいらっしゃいますが、「連帯保証人には家財を処分する権限はありません。とにかく本人の行方を調べましょう。行方は私も知りたいです。」と説得することをお勧めします。

オーナーは、近隣の部屋に居住する住人等から聞き取り調査をしていることがあります。金融機関の担当者等の来訪がなかったか、反社会的勢力の一員らしき者の出入りがなかったか、件の賃借人が誰かと言い争いをしている気配はなかったか、引越業者の出入りがあったか等の情報は、オーナーと共有するべき重要な情報です。

2.どこかに身を隠しているのか、事故や事件に巻き込まれているかの見極め
金融機関の担当者が来訪していたとか、引越業者が家財を運び出していたという情報が得られた場合は、借金の返済等に追われて自ら身を隠していること(いわゆる「夜逃げ」)が多いです。

また、誰かと言い争いをしているところを見かけたとか、反社会的勢力の一員と思える不審者が頻繁に出入りしていた場合は、事件に巻き込まれている可能性があります。可能であれば警察と相談し、警察官立ち会いの下で解錠し、室内を調べることをお勧めします。オーナーが室内を調べていない場合は、連帯保証人から「室内を調べて欲しい」と伝えても構いません。

このような場合のために、賃貸借契約を締結する際には特約を設けておくことをお勧めします。

特約として「家賃の支払いが確認できず、かつ連絡がつかないことが○日以上続く場合は、賃貸人は賃借人の安全確認を目的として部屋に立ち入ることがある。このことについて賃借人は承諾する。」等の一文を入れることにより、部屋に立ち入る行為は合法になります。

室内で争った形跡がある場合は、警察に捜査を委ねることになります。事件性がある場合、連帯保証人が賃借人の行方を追う必要はなくなります。後述する、「最終的に行方が判明しない場合」に記載した対応を執ることになります。

3.自ら身を隠していると思われる場合
通常、連帯保証人は賃借人と何らかの関係があることにより連帯保証を引き受けていると思われます(謝礼を受け取ることにより連帯保証人を引き受けた方は論外)。

賃貸物件の住所地に居住していなくても、郵便物を転送させていることがあります。郵便局に尋ねても転送先を教えてくれることはありませんが、転居届が提出されている場合は、賃貸物件の住所地宛に郵便物を郵送することにより転居先に届きます。最初に「とりあえず連絡して欲しい。」と書いた郵便物を送るのが有効です。

書留等、受領印が必要な郵便物を送ると、受け取りを拒否された場合に差出人に返送されます。このため、受領印を求めることなく転居先の郵便受けに投函し、配達した旨を記録する郵便(レターパックライトなど)を利用するのが良いと思います。配達状況を検索し、配達完了になっていた場合は自ら身を隠していることが確定します。

賃借人から連絡があった場合は、今後の対応を協議します。連絡がない場合、転居先を調べることになります。なお、郵便局が転居届を受理している場合は住民票が移されていることが大半です。賃貸人および連帯保証人は利害関係人なので、市区町村役場などで住民票の閲覧を求めることが可能です。役所の担当者に対する説明が難しいようであれば、弁護士に依頼し、住民票を職権で取得してもらっても構いません。

賃借人の行方が判明した場合、賃借人と今後の対応を協議します。

4.最終的に行方が判明しない場合
賃貸物件の所在地宛ての郵便物が転送されず、住民票を閲覧しても転出の記録がなく、賃借人から何の連絡も無い場合があります。警察に捜索を依頼しても行方がわからず、事件性の有無が明確ではなく、家財は部屋の中に残っている場合があります。

この場合でも家賃の支払いが3か月以上滞っている場合は、「賃貸人および賃借人相互の間の信頼関係が破壊された」として明け渡し請求の裁判を提起できます。賃借人の行方がわからない場合でも、裁判所に公示送達(裁判所の前に設置されている掲示板に2週間掲示する)をしてもらうことにより、裁判が提起された旨が賃借人に届いたと見做され、裁判を開始できます。

明け渡し請求を認める判決が下されたところで、強制執行手続きに移行します。催告および断行のプロセスを経ることにより強制執行は終わり、部屋が明け渡されます。家財がある場合は執行補助者が用意する倉庫に約1か月保管され、その間に引き取られない場合は動産競売にかけられます。

つまり、家賃を長期滞納した賃借人を法律に従って退去させる方法と同じ手続きで解決することになります。手続きの詳細は、こちらの投稿を参照願います。

5.連帯保証人が負担する責任
滞納した家賃全額、明け渡し訴訟の費用、強制執行をした場合は執行に要した費用、原状回復費用の合計になります。なお、連帯保証人が負担する金額の上限である極度額を定めている場合は、その金額が上限になります。改正民法により、令和2年4月1日以降に締結または更新された賃貸借契約では、連帯保証人の負担する債務の極度額が定められているはずです。

連帯保証人の負担をなるべく少なくするには賃借人の行方を捜し出して協議し、裁判手続きを経ることなく退去してもらうことが肝要です。裁判を行うと8~10か月を要することが多く、その期間における賃料も連帯保証人が負担しなければなりません。

連帯保証人が債務を弁済した後に賃借人が現れた場合、求償権を行使することにより支出費用の賠償を請求できます。しかし、無資力である場合には請求できません。