不動産を競売で購入したい方へ

 筆者の会社では過去に不動産競売にて物件を取得し、内外装のリフォーム後に再販する事業を行っていたことがあります。

 このためか、不動産の競売取得や引渡しに関する相談を受けることがよくあります。競売物件の取得代行を依頼されることがありますが、全て辞退させていただいています。予期しないトラブルがかなりの頻度で発生し、依頼されたお客様に御迷惑をおかけする恐れがあるからです。

 よくあるのは占有者(主に所有者)が何としても物件の引渡しに応じない事案です。このような場合、最終的には強制執行になりますが、かなりの日数を要し、多額の費用が発生します。都内の場合、強制執行には2か月以上、場合により半年以上を要することがあります。2階建て戸建住宅において「断行」まで行った場合、総費用は150万円を超えることがよくあります。

 引渡しの妨害事案もよく発生します。筆者の経験ですが、元の所有者に対し、弁護士が引渡しを拒むように指示したことがあります。競売による所有権移転登記後、裁判所が引渡命令を発令し、強制執行の「催告」が行われました。それにもかかわらず、弁護士は元の所有者に対し、引渡しに最後まで抵抗するように指示しました。

※「催告」:裁判所の執行官が現地に赴き、不動産の明け渡し日時を通知すること。この日時に執行官の指示により家財が搬出され、占有者(元の所有者)は強制的に退去させられる。

※「断行」:執行官立ち会いの下、執行補助者が家財を搬出し、占有者(元の所有者)を強制的に退去させること。通常は、催告の1か月後に行われる。

 この弁護士は元の所有者(以下A氏)から債務整理を依頼されていました。A氏に対し「執行官が来ても最後まで粘り、引き摺り出されても抵抗して明け渡しを拒んでください。」と言ったとのことです。まともな弁護士の言葉とは思えません。さすがにA氏も「これには応じられない。」とお考えになり、最終的にはこの弁護士を解任し、物件の引渡しに応じました。しかし、この弁護士のために引渡日は想定よりかなり遅れました。

 区分マンションや戸建住宅の場合、執行官による物件調査前に室内の家財を全て撤去し、空室であるとみせかけて競売を実施させる者がいます。競売の実施後、当該物件に大量の私物を持ちこみ施錠します。落札した方は部屋が空室だと思っているので鍵屋を呼びます。物件内に家財があるので驚きますが、解錠させて錠前を交換してしまうことがほとんどです。

 その後、元の所有者は「室内の私物を搬出したい。物件を訪問したら錠前が交換されていて開けられない。解錠してほしい。」と求めます。落札者が元の所有者と待ち合わせ、鍵を開けて入室すると、元の所有者が「私の絵画や宝石類がなくなっている。返して欲しい。」と騒ぐわけです。

 このような状況になると元の所有者のやりたい放題になります。元の所有者は「室内の物品に手をつけ、家財を持ち出した。」として落札者に損害賠償を請求します。落札者が裁判所に強制執行を求めても、裁判所は「室内に物品があるにも関わらず鍵屋に解錠させる行為は自力救済行為であり違法。このため執行不能。」と判断します。最終的には落札者が元の所有者に対し高額な和解金を支払わなければならなくなります。

 現況空室の物件に入札する場合は、特段の注意が必要です。

 競売による不動産取得は、相応のリスクがあると言えます。リスクに耐えられるかをよく検討してから挑むことを強くお勧めします。また、手持ち資金の全てを物件購入費に充てて入札することはお勧めしません。不測の事態が生じた際に、解決のための費用が必要になるからです。