収益用不動産を購入する際における注意点(その6、中間省略登記)

収益用不動産の売買は、非公開で行われることが多いです。非公開でレインズに掲載されていない物件の場合、中間省略登記による取引が行われることがよくあります。

ご承知の通り、売買当事者の一方から受領できる仲介手数料の上限は、物件価格の3%に6万円を加算した金額に消費税を上乗せした価格と定められています(400万円以下の場合)。この上限よりも多い利益を得るために考えられたのが、中間省略登記を利用した売買です。

売主Aが所有する不動産が売却され、不動産会社Bが仲介して買主Cが購入したとします。
Aの不動産価格が1億円の場合、不動産会社BはAおよびCより(100,000,000×0.03+6)×1.1= 336.6万円ずつを貰えます。ACの各々からもらえますので、両方で673.2万円が税込み報酬となります。

Bがこれ以上の利益を得たい場合は、Aより安く買い取り、Cに転売することが考えられます。

Aから9500万円でBが買い取り、Cに1億1千万円で売却すれば、Bは1500万円の利益が得られます。通常は、最初にBが所有権移転登記を備え、その後にCに所有権移転登記をしますが、契約書に中間省略登記に関する条項(第三者のためにする契約)を設け、Bに対する所有権移転登記を省略します。これにより、Bは登録免許税および不動産取得税を支払う必要が無くなります。登記簿上はAからCへ直接所有権が移転したものとして登記簿に記載されます。これを中間省略登記といいます。

この中間省略登記は、収益用不動産の売買において利用されることがあります。実務としては、概ね以下の手法が執られます。

1.売主Aおよび不動産会社(買主)Bとの間で売買契約書を作成する。BはAに手付金のみを支払い、決済時期は3か月後とする。
2.Bは「決済未了の売主」として購入希望者を探す。
3.不動産会社Cが、Bとの間で売買契約書を作成する。CはBに手付金を渡し、決済時期は3か月後とする。
4.Cは「決済未了の売主」として購入希望者を探す。
5.不動産会社Dが、Cとの間で売買契約書を作成する。DはCに手付金を渡し、決済時期は3か月後とする。
6.Dは「決済未了の売主」として購入希望者を探す。
7.最終的な買主Eを不動産会社Dが見つけ、EはDに代金を支払う。
8.DはABCと協議し、複数の売買契約書に記載されている内容を勘案しながら各々の利益を分配する。
9.所有権はAからEに直接移転したものとして登記所に登記を申請する。BCDは登記簿に反映されないので、登録免許税及び不動産取得税の支払いを免れる。

この例においてAE間に介在する不動産会社はBCDの三社ですが、更に増えることがあります。
この中間省略登記には以下の問題があります。

1.決済が終わっていないのに「売主」とみなして販売活動を行っている。決済が未了の間は、あくまでも他人物売買における売主であるにすぎず、所有者ではない。

2.上記のABCのいずれかが売買契約書を締結して手付金を収受した後も販売活動を継続し、最終的な買主を見つける場合がある。この場合、最終的な買主を見つけた者(ABCのいずれか)が代金を受け取り、先に登記申請をしてしまう恐れがある。その直後にDが買主Eを見つけ、売買代金を受け取ったとしても、別の者による登記申請が先に行われているために登記できない場合がある。Dが売買代金を受領しているにもかかわらず登記できなかった場合に、Dが行方をくらましてしまうとEが莫大な損害を被る恐れがある(いわゆる二重譲渡の問題)。

3.取引に複数の不動産会社が介在する物件の場合、価格が相場よりもかなり高額なことが多い。

いわゆる二重譲渡の問題があるため、多くの金融機関は中間省略登記を利用した売買取引に対する融資を行わなくなっています。中間省略登記の案件を全て扱わない金融機関もあります。
融資を引き受ける金融機関でも、取引に介在する不動産会社が2~3社以内であり、かつ関与する全ての不動産会社が無借金経営または上場企業である場合を除き、融資を認めなくなっています。

もし、不動産会社から紹介された収益用不動産の売主(物件概要書などに記載)と不動産登記簿に記載されている所有者とが異なる場合は、中間省略登記による所有権移転登記を前提としていることがほとんどです。

中間省略登記を前提とした収益用不動産の購入を検討する場合は、「商流表」(売主から自分までの間に介在する業者を記載した書類)の閲覧を要求し、どの不動産会社が介在するのかを確認しておく必要があります。契約した金額を教えてもらうことはできませんが、商流表の閲覧を拒まれた場合は、その物件の購入を控えるのが賢明です。