親が所有する既存の戸建住宅を賃貸用戸建住宅に転用できるか

最近、「親が介護施設に入所(または入院)したことから多額の費用が発生している。親が住んでいた住宅(実家)を賃貸戸建住宅として貸し出し、家賃を介護施設の費用に充てたい。」という内容の相談を受けます。

介護施設の費用は月15万円以上に達することがよくあります。都心では月30万円以上を要することも珍しくありません。多くの方において、年金だけでは支出できない金額です。

「親の住宅(実家)に誰も住まなくなった場合、賃貸戸建住宅として貸せば家賃が得られる。」と安易に考える方が多いのですが、戸建住宅を現状のままで賃貸用戸建住宅に転用できることは極めて稀です。転用するためには多額の費用を要することが大半です。

賃貸物件として貸し出す場合は、即時に居住を開始できることが必須の条件です。このため、建物および設備の不具合を放置したまま貸し出すことは許されません(賃借人によるリフォームを前提として貸し出される事業用物件を除く)。

賃貸戸建住宅として入居者を募るためには全ての窓および扉を問題なく開閉でき、給湯器、バス、トイレ、エアコン、システムキッチン、洗面台等の全ての設備が正常に動作することが必要です。窓や扉は正常に施錠できるかについて確認する必要があります。問題がある場合は設備の交換や修理を行なわなければなりません。

屋根瓦にひびが入っている、雨漏り(天井に雨染みがある)がある、水道管から漏水する、床板が腐食している、シロアリが発生する、壁クロスにカビが生えている、窓ガラスが割れている、下水がなかなか流れない等はもってのほかです。このような場合は、工務店等に修繕を依頼する必要があります。

和室がある場合、畳の表替えは必須です。フローリングの床板が剥がれている場合、および襖や障子が破れている場合には修繕が必要です。全ての設備改修工事および内装工事が終わったところでハウスクリーニングを行う必要があります。

庭がある場合は、植栽の剪定が適切になされていることが必要です。敷地の外から建物を見ることが出来ないくらいに樹木が生い茂っている状態の家は、誰も借りたいと思いません。

お年寄りだけが長年居住されていた邸宅の場合で、親族が尋ねる頻度が少ない場合、建物や室内設備の維持管理が適切に行われていないことがよくあります。

2階建ての戸建住宅を賃貸住宅にするために必要なリフォームや修繕に300万円以上を要することは珍しくありません。一年分の家賃に満たないことがよくあります。賃貸戸建住宅として貸し出しても2~3年は赤字を覚悟しなければならないことがよくあります。

相談された大半の方から、「介護費用をすぐに欲しい。現状で貸す方法はないか。」を訊かれます。しかし、費用をかけないと入居希望者は現れません。競争相手になる賃貸用住宅は他にも多くあり、大半は直ちに入居できる状態に整備されているからです。

住宅内の家財をどのようにするかも問題です。貸倉庫やトランクルームに収納するとしても、運搬には費用が発生します。さらに倉庫やトランクルームの利用料金が必要です。戸建住宅の場合、収納されている家財の量は想像以上に多いことがよくあります。

親が所有する既存の戸建住宅を賃貸用戸建住宅に転用することは可能です。しかし、相応の費用が必要になるので、賃貸用戸建住宅として貸し出した場合の収益に見合うかについてはよく検討する必要があります。