収益不動産のリノベーションおよび「”魔”改造」について

日頃お付き合いさせていただいている不動産会社より、収益物件の情報をほぼ毎日のようにいただくのですが、「”魔”改造」と言えるリノベーションを行い、資産価値を激減させてしまった物件が散見されます。

問題なのは、これらのリノベーションや改造を行うと資産価値が減少することについて、オーナーが知らないことが多くあることです。私が指摘し、初めて青ざめるオーナー様がいらっしゃいます。

賃貸の管理を依頼している不動産会社の担当者より「ワンルームの部屋は隣の部屋とつなげて広いファミリー向けにするのがよい」とか「部屋を事務所仕様にした方が早い入居につながる」等と言われ、その通りに実行したというパターンが多いです。

賃貸管理の担当者は賃貸に関するエキスパートであり、早く満室にする方法についてはかなりの知識がある方が多いです。しかし、不動産売買については未経験、またはほとんど知識が無い方が散見されます。

将来的な売却を全く考えず、さらに売買に関する知識がない担当者が「”魔”改造」をオーナーに推奨することが多いです。推奨されたとおりにその改造を実行すると、資産価値を大きく傷つけることがあります。

問題なのは、「お客様の資産価値」に無頓着である建築会社や工務店が多くあることです。不況が長期化していることもあり、オーナーが改造工事を希望すると、それが「”魔”改造」であるとしてもオーナーの希望通りに改造工事を行う建築会社や工務店が多いです。

「”魔”改造」を止める方が誰もいなかったことから、資産価値を大きく減少させてしまったオーナーは多くいます。

以下、多い改造例について書きます。

1.複数の部屋をつなげて広い部屋にする
ワンルームや1Kの賃貸物件が好まれる地域と、ファミリー向けのやや広い物件が好まれる地域があります。

私の会社の近くにある物件ですが、1棟もののワンルームマンションオーナーが、空室になるとなかなか満室にならないという理由で2~3部屋ずつをつなげ、ファミリー向けの部屋に改造しました。その際に壁を取り払い、何本かの柱を撤去しました。

鉄筋、軽量鉄骨、木造のいずれであっても、撤去してはいけない柱および壁があります。撤去すると耐震性が著しく低下し、地震が発生した際に居住者の安全を図れなくなります。

この物件では、取り除いてはいけない柱および壁を撤去してしまいました。リノベーションをしたことにより、建築時の構造計算を意味のないものにしてしまい、耐震性が弱い物件にしてしまったのです。

室内の見た目もおかしく、素人目にも複数の部屋をつなげたとわかる造りにしてしまいました。これでは入居希望者を募ることは困難です。

2.建物の屋上に1階分を増築し、何部屋か増やす
オーナーが建設業や工務店に勤務していた経験があり、手先が器用である場合に自ら行ってしまう改造です。

テレビのバラエティー番組等で、エレベーターで行ける最上階(本来の最上階)から狭い階段を登った先にある部屋、極端に狭いが賃料が激安である賃貸物件、間取りが変わった物件として、増築された物件が紹介されることがあります。

1部屋でも多くして賃料を多く稼ぎ、利回りを高めたいとの思惑で増築をするのでしょうが、発生する費用に見合う賃料を得ることが出来ないことがほとんどであり、かつ資産価値を大きく損なうので止めた方が良いです。

この増築を行うと、市区町村が定める指定容積率オーバーになることが大半であると思われます。多くは建築確認申請をしないで行う増築です。市区町村が増築の事実を知った場合、増築部分の取り壊し命令が発令されることがあります。

このような増築を行なった物件の売却は困難です。指定容積率オーバーかつ建築確認済証がないことから金融機関などから違法建築物件と見做され、事業用ローンの適用を断られてしまいます。このため、購入希望者に事業用ローンを利用してもらうことができません。

事業用ローンを適用するためには増築部分を壊すことが必要になります。しかし、増築部分に賃借人が居住している場合は、この賃借人を退去させなければ増築部分を撤去できません。退去させるには相応の費用と日時を要します。売却はなかなか成立しないことになります。

このような物件の買い受け先になるのはローンを利用せずに物件を購入できる、資金力のある不動産会社になります。ただし、大半は転売目的による買い取りなので、査定価格はかなり安くなります。さらに増築部分の取り壊しに要する費用および増築部分に入居している賃借人の退去費用を売却価格より差し引くことを求められます。

3.1階部分を全て壊し、駐車場にする
賃貸マンションの1階部分は、防犯上の問題があるという理由により入居希望者が少ない傾向があります。1階部分が空室になると、次の入居者がなかなか決まらないことがよくあります。また、駅から離れた物件の場合、居住者から駐車場を併設して欲しいとの要望が出されることがあります。

このような場合、1階部分の部屋を全て撤去してしまい、駐車場にしてしまうオーナー様がいらっしゃいます。

前述したとおり、鉄筋、軽量鉄骨、木造のいずれであっても、撤去してはいけない柱および壁があります。駐車場にするためにこれらを撤去してしまうと、建物の強度や耐震性が大きく損なわれます。そればかりか、建築確認済証がある物件の場合、建築確認済証を無意味にしてしまいます。

当然ですが、安全性が低く、建築確認済証が無意味の物件を高く売却することは出来ません。資産価値を大きく落とす改造になります。

4.1階部分の居室を全て店舗・事務所にする
人通りが多い道路に面している等の場合に、1階部分を店舗や事務所にリフォームして貸店舗や貸事務所にすることを勧められる場合があります。

しかし、市区町村が指定する用途地域に注意する必要があります。店舗や事務所を設けることが違法とされる場所があります。第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、田園住居地域(2018年4月追加)、工業専用地域については、店舗および事務所の設置に制限があります。

勧められるままに店舗や事務所に改造すると、物件の価値を損なうことがあるので、十分に注意する必要があります。