一括査定サイトによる査定価格は信用できない

 不動産一括査定サイトの利用を促すWEB広告が数多くあります。不動産の売却を検討されている方が最も気になるのは「どれくらいの価格で売れるか」という点でしょう。不動産一括査定サイトの広告を見た場合、一括査定サイトを利用してみたくなる方が多いと思います。

 不動産一括査定サイトに査定を依頼すると、複数の不動産会社から査定価格が提示されます。そして、最も高額な金額を提示した不動産会社に売却を依頼したくなると思います。不動産の売却が初めての方は、そのように考えがちであると思います。

 一括査定サイトにおける査定の最高価格が予想していた価格を大きく上回ると、ほとんどの方は気分が高揚し、舞い上がります。そして大半の方は最も高い金額をつけた不動産会社に問合せをします。ところが、この最も高い査定価格は相場の2割~5割超であることがとても多い実態があります。

 「一括査定サイトで最も高く提示された価格より高く売却して欲しい」として筆者に相談される方が時々いらっしゃいます。しかし、相場の2~3割増、酷い場合は5割増の価格が提示されていることがよくあります。このような高値では年単位の時間をかけても売却できません。

 お客様から「一括査定で最も高値をつけた不動産会社は大手だから、査定結果に間違いない」等と言われることがあります。このブログでは繰り返し述べていますが、「大手だから安心」とは言えません。

 大手不動産会社の営業担当は歩合制で雇用されていることが多く、顧客を増やすことに必死です。厳しいノルマが課されており、ノルマを達成できないと減給になり、やがて解雇されます。このため「とりあえず、他社に依頼されることを避け、自社の自分のお客様としてお迎えしたい」という考えが先行します。このような背景があるので一括査定サイトにおいて大手不動産会社が異常な高値を提示することがあります。

 大手、中小零細を問わず、最も高い価格を提示した不動産会社に売却を依頼しても、この価格では売却できません。不動産の購入希望者は数多くの物件を調べており、相場観が養われている方が大半です。相場より著しく価格が高額な物件を購入する方はほとんどいません。

 最も高い価格を提示した不動産会社は、提示した価格では売却できないことを知っています。そして多くの場合に、何ヶ月か後に「価格を下げましょう」と提案します。値下げの提案は一回だけではなく、何回も行われることが多いです。

 半年~1年程度経過したところで「なかなか売れないので価格を大きく下げましょう」等と提案されます。そして最終的には不動産買い取り業者に相場の約7~8割の価格で売却されることがよくあります。一括査定サイトを利用し、査定結果を信じたために大損をした売主様が数多くいらっしゃるのではないかと思います。

現地を訪問しなければ、正確な査定は困難

 一括査定サイトの運営会社から「査定する不動産会社として参加してもらえませんか?」というお誘いがよくあります。しかし、筆者は「現地を訪問しなければ正確な査定はできない」と考えています。このため、一括査定サイトからのお誘いは全てお断りしています。

★土地の場合

 土地を査定する際は、最初に路線価、公示地価のような指標になる価格と近隣の物件における成約価格を調べます。次にこれらの価格を物件所在地にあてはめますが、瑕疵のない整形地である場合の価格を算出します。

 その後、査定対象の土地における加算要因および減額要因を考慮して再計算します。加算要因としては南側の公道に接していて幅員が十分に広い、整形地、地勢が平坦、商業施設至近等があります。

 減額要因としては前面道路と敷地との間に高低差がある、擁壁が存在する、嫌悪施設が近い、不整形である等が該当します。敷地延長型の土地で間口が2mに満たないことから再建築不可、急峻な崖地等の場合は大幅に減額されます。また、土地の面積が登記簿記載の面積と大きく異なると思われる場合も減額査定されます。

 従って、路線価・公示地価、近隣の成約価格のみによる査定は不十分です。一括査定サイトでは減額要因をあまり考慮しないで査定価格を提示しているようです。これでは全く信用できません。

★区分マンションの場合

 区分マンションの場合は、室内の状態が問題になります。リフォームを行う必要がなくそのまま利用できる物件と、フルリフォームが必要な物件とでは価格が異なります。査定の際は、原状回復に必要なリフォーム費用を差し引かなければなりません。

 例えば床板に凹みがある、システムキッチンやバスルームの汚れをハウスクリーニングで除去できない等の物件は低く査定されます。

 最近、資材価格が猛烈に値上がりしています。このため、原状回復を目的としたリフォームの費用は高額です。東京都23区内または横浜市内のファミリー向け区分マンション(60~100㎡)は1,000万円以上を要することがあります。

 同じマンションにおける過去の成約価格を基準にした査定は不十分であり、室内の状態を確認しないと正確な査定はできません。しかし、一括査定サイトでは現地訪問を省略しています。内部が綺麗で設備の故障が全くないことを前提とした査定価格が提示されることが多く、あてになりません。

 一括査定サイトの提示価格は信用できません。何故利用したいと考える方が多いのか、とても不思議です。